先日、他社の事業を買収したばかりという後継者の方から、こんな相談を受けました。

「決算書にのれんという勘定科目が出てきたんですが、これって経費にできるんでしょうか」

買収額が引き継いだ純資産を上回った分、いわゆる「のれん」が貸借対照表に計上される。M&Aを一度でも経験した経営者なら、必ずぶつかる疑問だと思います。

結論、税務上は5年で損金にできる

結論から言うと、税務上ののれんは「資産調整勘定」という名前で、5年にわたって均等に償却し、損金に算入することができます。

買収額が1億円で、引き継いだ純資産の時価が7000万円だったとしたら、差額の3000万円が資産調整勘定です。これを5年、つまり年間600万円ずつ経費にしていける計算になります。

買収規模が大きいほど、この償却額は決算に効いてきます。数千万円単位の買収であれば、年間数百万円の損金が5年間続くわけですから、税額への影響は無視できません。

会計上ののれんとは別物と考える

ここで多くの経営者が混乱するのが、会計上ののれんの償却と、税務上の資産調整勘定の償却は、まったく別のルールで動いているという点です。

会計基準上は、のれんを最長20年以内の期間で規則的に償却するのが一般的です。一方、税務上の資産調整勘定は一律5年。会計上の償却年数を10年に設定していても、税務申告では5年で損金算入していくことになります。

両者がずれるため、会計上の償却費と税務上の損金算入額に差異が生じ、申告書上で調整が必要になります。顧問税理士と連携しながら、この差異を毎期きちんと把握しておくことが欠かせません。

対象になるのは事業譲渡や非適格の組織再編

もう一点、押さえておきたいのが対象範囲です。資産調整勘定として5年償却できるのは、事業譲渡や、税制非適格の組織再編によって生じたのれんに限られます。

株式譲渡でグループ会社化した場合や、税制適格の組織再編に該当する場合は、そもそも資産調整勘定が発生しません。同じ「会社を買う」という行為でも、スキームによって税務上の扱いがまるで違ってくるということです。

実際、事業譲渡なのか株式譲渡なのか、適格再編に組めるかどうかで、買収後5年間の税負担は大きく変わってきます。買収そのものの条件交渉に目が行きがちですが、スキームの選び方が将来のキャッシュフローを左右すると言っても過言ではありません。

買収の設計段階で税効果まで見ておく

M&Aの現場では、価格交渉やデューデリジェンスに意識が集中し、税務上の償却効果まで検討が及ばないケースを少なからず見てきました。

しかし、資産調整勘定として認められるかどうかは、契約書を交わした後では変更が利きません。事業譲渡にするか株式譲渡にするか、適格再編の要件を満たすかどうかは、スキームを組む段階での判断がすべてです。

これからM&Aを検討している、あるいはすでに交渉が進んでいるという方は、価格や契約条件だけでなく、買収後5年間の損金算入効果まで含めて、税理士とともにシミュレーションしておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。