先日、都内で内装工事業を営む社長から、こんな相談を受けました。「取引先が夜逃げ同然でいなくなって、300万円の売掛金が回収できなくなった。これ、経費にできますよね」

そう聞かれて、私は少し慎重に答えました。回収できない売掛金を貸倒損失として損金にすることはできますが、税務署はここをかなり厳しくチェックしてきます。「もう戻ってこなさそうだから」という理由だけで勝手に損金処理をしてしまうと、税務調査で否認されるリスクが高いのです。

貸倒損失には3つの型がある

結論から言うと、貸倒損失として損金にできるかどうかは、大きく3つの類型のどれかに当てはまるかどうかで決まります。

一つ目は、法律上の切り捨てです。会社更生法や民事再生法といった法的整理の手続きで債権の全部または一部が切り捨てられた場合や、債権者集会の協議で債務免除が決まった場合がこれにあたります。この場合は、切り捨てが決定した事業年度に、その金額をそのまま損金にします。

二つ目は、事実上の貸倒れです。法的な手続きを経ていなくても、債務者の資産状況や支払能力から見て、全額が回収できないことが客観的に明らかな場合に認められます。ただしこの類型は、担保物があればまずそれを処分してからでないと損金にできません。

三つ目は、一定期間取引停止後の貸倒れです。継続的な取引をしていた相手と取引を停止してから1年以上が経過し、その後も支払いがない場合、売掛金から備忘価額(1円など)を除いた金額を損金にできます。ただしこの型は売掛金に限られ、貸付金には使えない点に注意が必要です。

税務署が厳しく見るのは「事実上の貸倒れ」

税務署OBの方に話を聞くと、税務調査で最も争点になりやすいのは、この二つ目の「事実上の貸倒れ」だと言います。

「回収努力もせずに、決算の都合で損金にしているだけではないか」という目で見られやすいためです。全額回収不能であることを、会社側が客観的な資料で示せなければ、損金算入は認められません。

冒頭の内装工事業の社長のケースで言えば、取引先の所在が分からなくなったという事実だけでは不十分です。督促の記録、内容証明郵便の送付履歴、相手先の登記情報や信用調査の結果といった資料を、あらかじめ残しておく必要があります。仮にこれらの資料なしに300万円を損金処理してしまうと、税務調査で否認され、加算税まで発生しかねません。

証拠を残す習慣が、いざという時に効いてくる

貸倒損失は、要件さえ満たせば堂々と損金にできる項目です。ただし「満たしている」ことを税務署に説明できる材料がなければ、せっかくの権利を使えないまま終わってしまいます。

売掛金の回収が滞り始めた段階から、督促のやり取りや相手先の状況をこまめに記録しておく。それだけで、いざ貸し倒れが確定したときの対応がまったく変わってきます。取引停止後の期間をカウントする起算日も、記録が曖昧だと後から立証しづらくなります。

もし今、回収が怪しい売掛金を抱えている会社であれば、督促の履歴を今のうちから整理しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。