先日、ある社長からこんな相談を受けました。「飲食代は全部交際費でまとめてます」と胸を張っていたのですが、聞けば聞くほど心配になる内容でした。
中小企業の交際費は、年800万円まで全額損金にできる枠があります。ありがたい制度ですが、この枠は思っているより早く底をつきます。何でもかんでも交際費に放り込んでいる会社ほど、その傾向が強いのです。
800万円はあっという間になくなる
取引先との会食、贈答品、ゴルフの接待。こうした支出をすべて交際費という一つの箱に入れていると、枠の消費スピードは想像以上に速くなります。
税務調査の現場でも、交際費を使い切ってしまっている会社は珍しくありません。しかも厄介なのは、枠を使い切った状態で新たな交際費が発生すると、その分は損金に算入できず、そのまま税負担として跳ね返ってくることです。
枠を無駄に消費しないためには、「本当に交際費として処理すべき支出かどうか」を一件ごとに見極める必要があります。
1人1万円以下の飲食は交際費から外せる
実は、交際費だと思い込んでいる支出の中に、別の科目に振り分けられるものが少なくありません。
代表的なのが、社外の相手との飲食費です。1人あたり1万円以下という金額要件を満たし、参加者や日付などの必要事項を書面に残していれば、交際費ではなく「会議費」として処理できます。会議費であれば全額損金です。
さらに、社内の忘年会や慰安旅行のように、従業員を対象とした一定の飲食や行事は「福利厚生費」に区分できる場合があります。交際費の枠をまったく消費せずに済むわけです。
つまり、同じ「飲食代」という支出でも、内容と残す記録次第で交際費・会議費・福利厚生費のどこに振り分けるかが変わってきます。ここを面倒がって全部交際費で済ませてしまうのが、枠を無駄遣いする最大の原因です。
私的な飲食を混ぜると、今度は否認される
枠の節約とは逆方向のリスクもあります。それは、経営者や役員の私的な飲食を交際費に紛れ込ませてしまうケースです。
家族との食事や、事業とまったく関係のない知人との飲み会まで交際費として処理していると、税務調査で「これは事業に関係ないのでは」と指摘され、そのまま否認されます。否認されれば追徴課税に加えて、悪質と判断されれば加算税のリスクも出てきます。
枠を使い切ることと否認されること、この二つは一見正反対のようで、原因は同じところにあります。支出の中身を精査せず、まとめて交際費に放り込んでいることです。
記録を残すだけで、枠も守れて否認も防げる
対策はシンプルです。飲食や接待が発生するたびに、日付・相手・人数・目的をその都度記録しておくこと。これだけで、会議費に振り分けられるものと交際費として計上すべきものが明確に区別できます。
領収書の裏にメモを書く、経費精算システムの備考欄に一言残す。どちらでも構いません。大事なのは「後から思い出して書く」のではなく、その場で記録する習慣です。
記録があれば、1万円以下の飲食を会議費として堂々と処理でき、交際費の枠は本当に必要な接待のために温存できます。同時に、私的な支出が紛れ込むリスクも自然と減っていきます。
まだ交際費の記録を「とりあえず領収書だけ保管」で済ませているなら、日付・相手・人数・目的の4項目だけでもメモに残す運用を、今期から始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。