先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「保険会社さんに、社長の保障は大きいほど安心ですよって言われて、1億円のプランを勧められたんですよね」。
悪い話ではありません。ですが、金額の根拠を尋ねると、はっきりした答えは返ってきませんでした。なんとなく大きい方が安心、なんとなくキリのいい数字。実はこのパターン、法人保険の相談で驚くほどよく出会います。
保障額は「安心感」ではなく「計算」で決まる
保険の保障額を、保険料の負担感や「これくらいあれば安心」という感覚だけで決めてしまう社長は少なくありません。
ですが本来、法人保険における必要保障額は逆算できるものです。社長に万一のことがあったとき、会社が事業を継続するために実際にいくら必要になるのか。ここから積み上げて金額を出すのが筋です。
感覚で決めた保障額は、多すぎれば無駄な保険料を払い続けることになり、少なすぎれば肝心なときに資金が足りなくなります。どちらに転んでも会社にとって損な話です。
必要保障額を構成する3つの要素
必要保障額は、大きく分けて3つの要素の合計で考えます。
ひとつ目は借入金の残高です。社長が万一のことになった場合、金融機関から一括返済を求められるケースがあります。連帯保証が付いている借入は、特に優先して手当てすべき金額です。
ふたつ目は固定費の数ヶ月分です。社長不在の混乱期にも、家賃や人件費、リース料といった固定費は待ってくれません。後継者体制が整うまでの運転資金として、最低でも3ヶ月から6ヶ月分は見ておきたいところです。
三つ目は死亡退職金です。社長の遺族に支払う退職金の原資も、あらかじめ保険で準備しておく会社が多くあります。功績倍率法などで試算した金額をここに乗せます。
この3つを足し合わせた金額こそが、その会社にとっての「根拠のある保障額」になります。
実際に計算してみるとこうなる
仮に、借入金残高が4000万円、月間固定費が800万円で6ヶ月分の4800万円、死亡退職金の想定額が2000万円という会社があったとします。
単純に足し合わせると、必要保障額は1億800万円です。ここから会社の現預金や、既に加入済みの保険でカバーできる分を差し引いて、不足額だけを新たに手当てすればよいわけです。
結果として1億円というプランに落ち着くこともあるでしょう。ただし、それは保険営業が最初に提示した「1億円あれば安心」という数字とは、たどり着いた経緯がまったく違います。
計算の結果として出た1億円なら、その保障額には説明できる理由があります。
根拠のある保障額は、経営コストとして納得できる
必要保障額を計算してから加入すると、保険料そのものへの向き合い方も変わってきます。
「なんとなく高額な保険に入っている」状態だと、決算のたびに保険料の重さだけが気になり、本当に必要なのか疑問を持ちながら払い続けることになりがちです。
一方、借入金の返済・固定費の維持・退職金の準備という具体的な目的が紐づいていれば、保険料は単なる出費ではなく、事業継続のための経営コストとして説明がつきます。金融機関に対しても、顧問税理士に対しても、堂々と根拠を示せる保障です。
どんぶり勘定で加入した保険ほど、後から見直しの対象になりやすいものです。保障額が大きすぎれば解約返戻金の設計とのバランスが崩れ、小さすぎれば追加加入の手間とコストがかさみます。
まずは自社の必要保障額を出してみる
保険の見直しを考えるなら、新しい商品を探す前に、まず自社の必要保障額を計算してみることをおすすめします。
借入金残高は決算書ですぐに確認できますし、固定費の数ヶ月分も損益計算書から出せます。死亡退職金の想定額だけは、顧問税理士と一緒に功績倍率などを踏まえて試算するとよいでしょう。
この数字が出てから保険会社と話をすれば、提案されたプランが自社に合っているかどうかを、自分の言葉で判断できるようになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。