先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「うちは社長に万一のことがあっても大丈夫。死亡保険にしっかり入っているから」と。

話を詳しく聞いていくと、気になる点がありました。死亡保障は手厚いのに、入院や療養が長引くケースへの備えがほとんどないのです。

死亡よりも「倒れて働けない」ケースの方が多い

保険を検討するとき、多くの社長がまず死亡保障から考えます。もちろんそれ自体は間違いではありません。

ですが実際に経営の現場で起きやすいのは、死亡ではなく「病気やケガで長期間働けなくなる」ケースです。脳卒中や心疾患で数ヶ月の療養が必要になったり、がんの治療で半年以上現場を離れたりすることは、決して珍しくありません。

そしてこの「働けない期間」こそが、会社にとって一番苦しい時間になります。

止まらないのは固定費と借入返済

社長が入院しても、家賃や人件費といった固定費は待ってくれません。銀行への返済も、社長の体調に合わせて猶予してくれるわけではないのです。

仮に月商1,000万円、固定費600万円の会社で社長が3ヶ月動けなくなったとします。売上が落ち込む一方で固定費と返済は通常どおり出ていくため、資金繰りは一気に厳しくなります。

社長本人の入院費や治療費以上に、会社の資金繰りへのダメージの方がはるかに大きいというのが実態です。

保険の優先順位は「起きやすさ」と「打撃の大きさ」で決める

ここで整理しておきたいのが保険の優先順位です。ポイントは、発生確率と会社への打撃の大きさを掛け合わせて考えることです。

1つ目は、借入をカバーする死亡保障です。万一の際に借入金が残ってしまうと、遺されたご家族や後継者に重い負担がのしかかります。ここは最低限、借入残高をカバーできる金額を確保しておきたいところです。

2つ目が、就業不能への備えです。先ほど触れたとおり、発生頻度と会社への影響を考えると、実はここが最も手薄になりがちな部分です。固定費の3〜6ヶ月分程度をイメージして設計している会社が多い印象です。

3つ目は医療保険です。もちろん必要ではありますが、入院給付金だけでは固定費や借入返済まではカバーしきれません。優先順位としては最後に位置づけて問題ないでしょう。

保険営業の提案をそのまま受け入れる前に

保険会社の担当者は、まず死亡保障からの提案が定石になっているケースが多いようです。それ自体が悪いわけではありませんが、「うちの会社にとって一番怖いリスクは何か」を先に整理してから話を聞くことをおすすめします。

借入の有無、固定費の規模、社長が動けなくなったときに代わりを立てられる体制があるかどうかで、必要な保障の中身は会社ごとに変わってきます。

もし今の保険が死亡保障だけに偏っているようであれば、一度、就業不能への備えを見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。