先日、ある製造業の社長のもとに保険営業マンが訪ねてきて、こんな提案をしていったそうです。「新しい節税プランの保険はいかがですか」。

その話を聞いて、私は思わず「ちょっと待ってください」と言いました。新規の保険を検討する前に、もっと先にやるべきことがあるからです。

新規より先に、昔の保険を棚卸しする

多くの会社の決算書を見ていると、10年以上前に加入した経営者保険が、そのまま放置されているケースによく出会います。

加入した当時は「全額損金になる」「退職金の準備になる」という営業トークに納得して契約したはずです。ところが、その保険が今もその通りの効果を発揮しているかというと、話は別です。

新しい保険に入る前に、まず今ある保険証券を全部机の上に並べてみる。これが最初の一歩です。

2019年の改正で「旨味」が変わった

法人保険の税制は、2019年に大きく改正されました。それまで全額損金として計上できた保険の多くが、解約返戻率に応じて損金算入割合が制限されるようになったのです。

解約返戻率が50%を超える商品は半分損金、70%を超えると4分の1損金といった具合に、区分が細かく設定されました。

この改正より前に加入した保険には、今の基準では組めないような有利な条件のものが残っていることがあります。逆に言えば、改正後の基準に照らすと「思ったより損金効果が薄い」保険を、当時の説明のまま信じて払い続けている社長も少なくありません。

保険料が年間300万円、500万円という規模になると、この差は決算の数字に確実に響いてきます。

棚卸しで確認すべき3つのポイント

実際に棚卸しをするときは、次の3点を保険証券と一緒に確認していきます。

  • 解約返戻率が今どのフェーズにあるか(ピークはまだ先か、もう過ぎているか)
  • 契約当初の目的(退職金準備・事業保障など)が今の会社の状況と合っているか
  • 損金算入割合が現在の税制上どう扱われているか

特に解約返戻率のピークは要注意です。ピークを過ぎてから解約すると、戻ってくる金額が目減りしていきます。かといって、ピークのタイミングと社長の勇退時期がずれていると、出口でうまく退職金に充当できません。

先の社長のケースも、実は加入した保険のピークが3年前に過ぎていて、そこから返戻率がじわじわと下がり続けている状態でした。誰にも気づかれないまま、です。

出口まで含めて設計し直す

保険は「入るとき」ばかりが注目されますが、本当に大事なのは「出るとき」です。

解約返戻金をいつ、何のために受け取るのか。役員退職金の原資にするのか、設備投資の資金にするのか。この出口の設計が曖昧なまま加入した保険は、時間が経つほど本来の目的からずれていきます。

棚卸しの結果、今の会社の状況に合わなくなっている保険が見つかったら、解約・見直し・保障の入れ替えといった選択肢を、税理士と一緒に検討することになります。新規の保険はその後の話です。

もし手元に5年以上前に加入した経営者保険の証券があるなら、次の決算を待たずに、一度棚卸しの時間を作ってみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。