先日、顧問先の社長から保険営業の資料を見せられました。保険料は月々十数万円、返戻率は決して悪くない水準です。「これ、入ろうと思うんですが、どう思いますか」と聞かれた私が最初に返したのは、感想ではなく質問でした。「その解約金、いつ、何に使う予定ですか」。社長は少し黙り込みました。
「返戻率が良い」は契約理由にならない
法人保険の営業トークは、たいてい保険料の手頃さと返戻率の高さから始まります。どちらも数字として分かりやすいので、社長の判断材料になりやすいのは事実です。
ですが、この二つはあくまで「入口」の条件にすぎません。保険は加入した瞬間に完結する商品ではなく、何年後かに解約または満期を迎えて初めて意味を持つ金融商品です。入口の条件だけで契約を決めるのは、行き先を決めずに新幹線の座席だけ選ぶようなものです。
出口を先に決めるとは、具体的に何をすることか
出口を先に決めるというのは、次の3つを契約前に言語化しておくことです。
- 解約金を何に充当するのか(役員退職金、事業承継資金、設備投資の頭金など)
- 解約返戻率がピークを迎えるのは何年後か
- その年、会社と社長自身はどういう状態にあると想定しているか
例えば「65歳での勇退時に退職金の原資にする」と決まっていれば、逆算して契約年数と返戻率のピーク時期が一致する商品を選べます。逆にこれが決まっていないと、ピークを過ぎて返戻率が下がり始めたタイミングでしか資金化できない、という事態が起こります。
出口を決めずに契約した会社に起きること
実際に多いのは、返戻率のピークが55歳のときに来る商品に加入したものの、社長本人は70歳まで現役を続けるつもりだったというケースです。ピークを10年以上過ぎてから解約すれば、当然ながら返戻金は目減りします。
さらに厄介なのは、解約するタイミングでその年の会社の利益状況を考慮していないケースです。解約返戻金は原則として益金に算入されるため、たまたま業績の良い年に解約すると、想定以上の法人税負担が発生します。退職金の損金算入とセットで設計していなければ、節税どころか増税で終わってしまいます。
出口の計画に合わせて商品を選ぶ
順番は常に、出口が先です。まず「いつ」「誰の」「何のために」使う資金かを決め、そこから逆算して保険期間や返戻率のカーブが合う商品を選ぶ。保険営業から提案を受けた時点で判断するのではなく、自社の退職金規程や事業承継の時期と照らし合わせてから判断する、という順番を守るだけで、失敗のリスクは大きく減ります。
もし今、保険の提案書を前に「返戻率は悪くなさそうだ」としか判断材料がないなら、一度契約を保留にして、その解約金の出口を先に決めてみてください。それだけで、選ぶべき商品はおのずと絞られてくるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。