先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「税務調査で帳簿をきちんと出さなかったら、青色申告が取り消されるって聞いたんですが、そんなことあるんですか」と。

半分は都市伝説だろうと思われていたようですが、答えは「あります」です。しかも、取り消された瞬間に失うものは、想像以上に大きいのです。

青色申告の取消しは「最終手段」

税務署の元調査官に話を聞くと、青色申告の承認取消しは、調査でよほど悪質な対応をした会社に対して発動される、いわば最終手段だそうです。

帳簿を求められても提示しない。資料を隠す。同じような指摘を繰り返し受けているのに改善しない。こうした対応が積み重なると、税務署は「この会社の帳簿は信頼できない」と判断し、青色申告の承認そのものを取り消しにかかります。

一度きりの些細なミスで即取消しになるわけではありません。ただし、帳簿の不提示や隠蔽が繰り返されるケースでは、現実に起こり得る話だと考えておいた方がよいでしょう。

取り消されると、過去の赤字が消える

ここが最も痛いポイントです。青色申告には「欠損金の繰越控除」という特典があります。赤字が出た年の損失を、最大10年間繰り越して将来の黒字と相殺できる仕組みです。

たとえばコロナ禍で大きな赤字を出し、その後数年かけて業績を回復させてきた会社があるとします。繰り越してきた欠損金がまだ数千万円残っているとしたら、それは将来の税負担を数百万円単位で軽くしてくれるはずだった「資産」です。

ところが青色申告が取り消されると、この繰越控除が使えなくなります。過去の赤字そのものが帳簿から消えるわけではありませんが、税務上はもう使えない欠損金になってしまう。長年赤字を我慢して積み上げてきた「将来の節税余地」が、その瞬間に消滅するのです。

中小企業向けの優遇もほぼ全滅

失うのは欠損金の繰越控除だけではありません。青色申告を前提にした中小企業向けの優遇措置は、ほぼすべて使えなくなります。

代表的なものが、30万円未満の資産を一括で経費にできる少額減価償却資産の特例です。この特例が使えなくなると、備品や機材を購入するたびに数年かけて減価償却しなければならず、その年の利益を圧縮する選択肢が失われます。

ほかにも各種の税額控除や特別償却など、白色申告では受けられない特典の多くが、青色申告の承認とセットになっています。取消しは、こうした特典を一度にまとめて失うことを意味します。

帳簿整備は「義務」ではなく「入場券」

参謀役の税理士がよく口にする言葉があります。「青色申告の特典は、帳簿という信頼の対価です」というものです。

帳簿をきちんとつけ、求められたときにすぐ提示できる状態にしておく。これは税務署への義務というより、節税という恩恵を受け続けるための入場券だと考えると、日々の経理作業への向き合い方が変わってくるはずです。

調査が来てから慌てて帳簿を整えようとしても、間に合わない場合があります。日頃から記帳を溜めない、証憑をきちんと保存しておく。それだけで、将来数百万円単位の欠損金を守れる可能性が高まります。

まだ帳簿の整理を後回しにしているなら、今期のうちに一度、顧問税理士と一緒に棚卸ししておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。