先日、従業員30名ほどの卸売業を営む社長からこんな相談を受けました。「うちはもうクラウド会計を入れてるし、電子帳簿保存法は対応済みです」と自信満々だったのですが、少し詳しく聞いてみると顔色がみるみる変わっていきました。

メールで届いた請求書を、そのままGmailのフォルダに溜め込んでいたのです。それも、半年以上分。


「保存している」と「正しく保存している」は別の話

2024年1月から、電子帳簿保存法への対応が完全義務化されました。電子データで受け取った請求書や領収書は、紙に印刷して保管するだけではNGになったのはご存知の方も多いでしょう。

ただ、ここで多くの社長が誤解しているのが「データとして保存してあるから大丈夫」という思い込みです。法律が求めているのは、単なるデータ保存ではありません。改ざんができない状態での保存、つまり「タイムスタンプ要件」への対応が求められているのです。

これを知らずに運用しているケースが、本当に多い。


72時間以内に処理しないと違反になる

電子取引(メールやクラウドサービスで受け取った請求書・領収書など)を保存する場合、原則として受領後72時間以内にタイムスタンプを付与するか、改ざん防止措置を講じる必要があります。

72時間というのは、わずか3日間です。月末にまとめて処理しようとしたり、「後でやろう」と放置していたりすると、あっという間にアウトになります。

もちろん、クラウド会計ソフトの中には自動でタイムスタンプ処理をしてくれるものもあります。ただし、ソフトの機能をオンにしているだけでは不十分なケースもあるので注意が必要です。実際に運用ルールとして社内で徹底されているかどうかが問われます。


違反したときのリスクは「税務調査で指摘」だけじゃない

ここが本題です。電子帳簿保存法への違反が発覚した場合、単に「書類の不備を直してください」で終わる話ではありません。

最も深刻なリスクは、青色申告の承認取消です。

青色申告が取り消されると、年間最大65万円の青色申告特別控除が使えなくなります。さらに、欠損金の繰越控除(赤字を最大10年間繰り越せる制度)も失われます。経営が苦しいときに赤字を翌期以降の利益と相殺できなくなるのは、キャッシュフローにとってかなりの痛手です。

税務調査でこの点を指摘されると、過去の税務処理まで遡って問題になりかねない。「知りませんでした」は通じないのが税の世界です。


今すぐ確認してほしい3つのポイント

難しく考えすぎる必要はありません。まず自社の運用を以下の観点でチェックしてみてください。

ひとつ目は、電子データで受け取った書類をどこに、どう保存しているかです。Gmailのフォルダやデスクトップに放置しているなら要注意です。クラウドストレージでもルールなく保存しているだけでは不十分です。

ふたつ目は、タイムスタンプの付与が72時間以内に確実に行われているかです。担当者任せになっていて、ルールが形骸化していないかを確認してください。

みっつ目は、検索要件を満たしているかです。日付・金額・取引先名で書類を検索できる状態にしておく必要があります。「どこかに保存してあるはず」では要件を満たしません。


正しく対応していれば、むしろ税務調査に強くなる

逆に言えば、ここをきちんと整備している会社は税務調査で強いです。電子帳簿保存法に則った保存をしていると、調査官がデータを確認した際にも「適切に管理されている」という印象を与えられます。

実際に、運用ルールを整備した後に税務調査が入ったクライアント先では、書類関係の指摘がゼロだったケースもあります。手間をかけた分、調査対応コストが下がるのです。


まだ社内の運用ルールが曖昧なまま、なんとなく対応している状態なら、今期中に一度見直しをかけることを強くおすすめします。

クラウド会計ソフトの導入だけでは不十分で、「誰が・いつ・どうやって処理するか」というフローを社内で決めることが本質です。顧問税理士と一度、現在の運用が法令要件を満たしているかを確認してみてください。半年後に青ざめることのないように。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。