先日、都内で飲食業を経営する社長からこんな連絡が入りました。「税理士から急に電子帳簿の話をされたんですが、うちって何か問題ありますか?」と。
話を聞いてみると、取引先からメールで届いた請求書をPDFに変換して、社内の共有フォルダに保存しているだけ、とのこと。「ちゃんとデータで保管してるから大丈夫ですよね?」と言う社長の顔が、説明を進めるうちにみるみる青ざめていきました。
実はこれ、かなり危ない状態です。
「保存しているだけ」が一番危ない
2024年1月から、電子帳簿保存法が完全義務化されました。メールで受け取った請求書や契約書などの電子データは、原則として電子データのまま保存しなければなりません。
ただし、問題は「保存しているかどうか」ではなく、**「正しい方法で保存しているかどうか」**です。
ここを多くの会社が誤解しています。Outlookの添付ファイルをそのままフォルダに突っ込んでいるだけ、という運用は、法的にはほぼアウトです。税務調査が入ったとき、過去5年分の経費をまとめて否認されるリスクがあります。金額によっては、数百万円単位の追徴課税に発展することもあります。
現場でよく見る3つのNG運用
実際に顧問先の帳簿を確認していると、同じミスが繰り返し出てきます。特に多いのが次の3パターンです。
まず一つ目が、タイムスタンプなしの保存です。電子データは後から改ざんできてしまうため、「いつ、この状態で存在していたか」を証明する仕組みが必要です。それがタイムスタンプ(改ざん防止の電子印)です。これがないと、保存していても要件を満たしません。
二つ目は、検索できないフォルダ管理です。法律では、取引年月日・取引金額・取引先名の3項目で電子データを検索できる状態にしておくことが求められています。「月別フォルダに入れてある」だけでは不十分で、税務調査官が「2023年10月の株式会社〇〇からの請求書を出して」と言ったときに、すぐに出せる体制が必要です。
三つ目が、印刷して紙を原本扱いにするパターンです。「念のため紙でも保管しておこう」という気持ちはわかりますが、電子で受け取ったものを紙に出力しても、それは原本にはなりません。むしろ「電子データを削除して紙だけ残す」という運用は、今や明確な違反です。
月数千円で解決できる話です
「じゃあどうすればいいの?」という話ですが、実はそれほど難しくありません。
国税庁が認定したクラウド型の電子帳簿ソフトを導入するのが、最もシンプルな解決策です。有名どころだと「freee」「マネーフォワード クラウド」「invox」などがあります。月額数千円から使えるサービスがほとんどで、タイムスタンプの付与も検索機能も、システム側が自動でやってくれます。
「うちは規模が小さいから」と後回しにしている会社ほど、税務調査のときに痛い目を見ます。規模が小さいからこそ、一度の追徴課税でキャッシュフローが大打撃を受けるリスクがあります。
「うちは大丈夫」の根拠を確認してほしい
もう一点、気をつけてほしいのが、社内の担当者任せになっているケースです。「経理が対応してると言ってたので」という社長は少なくないのですが、担当者が「保存している」と「正しく保存している」を混同しているケースが非常に多い。
今期の決算が終わったら、一度税理士に「うちの電子帳簿の運用、要件を満たしていますか?」と確認してみてください。問題があれば早めに是正できますし、問題がなければそれで安心できます。
もし顧問税理士からまだ何も言われていないとしたら、それはそれで少し心配です。電子帳簿保存法の要件チェックは、今や税理士の基本業務の一つになっています。
完全義務化から時間が経つほど、「知らなかった」は通じなくなっていきます。今のうちに運用を整えておくのが、リスクを最小限に抑える一番の節税策です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。