先日、ある建設業の社長からこんな相談を受けました。「外注さんへの支払いだから、源泉徴収なんて関係ないですよね?」

実はこの認識のズレが、税務調査で会社側に重い追徴を招くケースを、私はこれまで何度も見てきました。今日はその仕組みをお話しします。

源泉徴収は「支払う側」の義務

給与や、原稿料・デザイン料・講演料といった一部の報酬については、支払う会社が源泉徴収をして税務署に納める義務があります。受け取る側が確定申告で精算する仕組みとは別に、支払う側があらかじめ天引きして納付する制度です。

ここで重要なのは、この義務を負っているのは受け取った本人ではなく、支払った会社だという点です。もし源泉徴収の対象なのに天引きせず支払ってしまった場合、後から追徴を求められるのは会社の方になります。

「外注のつもり」が給与と判断される落とし穴

国税OBの知人によると、実務でよく見られるのが「外注費のつもりで支払っていたら、税務調査で給与だと判定された」というケースだそうです。

業務委託契約を結んでいても、勤務時間や場所を会社が指定していたり、道具や材料を会社が用意していたり、他の仕事を受けられない専属的な働き方をしていたりすると、実態は雇用に近いと判断されることがあります。そうなると、外注費として処理していた支払いが給与に組み替えられ、源泉徴収の対象だったのに漏れていたという扱いになります。

この判定は契約書の文言だけでは決まりません。実際の働き方、指揮命令の有無、報酬の決め方など、複数の要素を総合的に見て判断されます。契約書を業務委託にしておけば安心、というわけではないのです。

漏れが見つかると、不納付加算税も上乗せされる

源泉徴収の漏れが発覚すると、会社はまず本来納めるべきだった源泉所得税を納付するよう求められます。さらにここに不納付加算税が上乗せされます。

原則として納付額の10%、税務署から指摘される前に自主的に気づいて納付した場合は5%が課される仕組みです。金額そのものは1件あたりそこまで大きくなくても、対象者が複数人いたり、数年分さかのぼって指摘されたりすると、合計額は無視できない規模になります。

しかも厄介なのは、すでに受け取った側は年間の報酬を前提に生活や資金繰りを組んでいるため、今さら天引き分を返してもらうのが難しいという点です。結果として、会社が本来天引きすべきだった分まで実質的にかぶる形になることも珍しくありません。

誰への支払が源泉対象か、一度整理しておく

参謀役の税理士がよく口にするのは、「誰への支払が源泉対象か、整理しておくこと」という一言です。給与はもちろん、税理士や弁護士への顧問料、原稿料、講演料、一部の外注費など、源泉徴収の対象になる支払いは意外と幅広く存在します。

特に注意したいのは、次のような支払いです。

  • フリーランスや個人事業主への継続的な業務委託費(実態が雇用に近くないか)
  • 士業や専門家への顧問料・報酬(源泉徴収の対象範囲に入っていないか)
  • 講演やセミナー登壇への謝礼(金額にかかわらず対象になりやすい)

一つひとつの支払いについて「これは源泉徴収の対象になるか」を確認する作業は地味ですが、後からまとめて追徴を受けるリスクを考えれば、決して手間に見合わないものではありません。

もし顧問契約や外注契約の見直しを長らくしていないなら、次の決算までに支払先ごとの源泉徴収の要否を、顧問税理士と一緒に棚卸ししておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。