先日、古くからの知人の社長からこんな連絡がありました。「まだ全額損金になる保険ってあるの?保険屋さんに勧められたんだけど」。
正直なところ、その言葉を聞いて少し驚きました。今の時代に「全損保険」という言葉を売り文句にしている担当者がまだいるのか、と。
結論から言うと、かつてのような全損保険はもう存在しないと考えたほうが安全です。令和元年の税制改正で、その土台ごと崩れてしまったからです。
「全損」というカテゴリごと消えた
以前の法人保険には、保険料を全額損金にできる商品が数多く存在しました。逓増定期保険や長期平準定期保険などがその代表で、「払った分がまるごと経費になる」という分かりやすさが人気の理由でした。
2019年、国税庁はこの仕組みに大きくメスを入れます。以降は保険の型ではなく、「最高解約返戻率」という一本の物差しで損金算入割合が決まる仕組みに変わりました。
返戻率が高い、つまり将来戻ってくるお金が多い商品ほど、損金にできる割合は下がっていきます。返戻率85%を超えるような商品では、保険料の大部分を資産計上しなければならず、「全額損金」を名乗れる余地はほぼ残っていません。
それでも「全損保険」が売られ続ける理由
保険営業が「でも一部は損金にできますから」と食い下がる場面は、実務でもよく見かけます。この言い分、実は嘘ではありません。
改正後のルールにも、最高解約返戻率が50%以下であれば従来どおり全額損金にできる枠は残っているからです。「全額損金」という言葉自体は、今も使えるケースがあるというのが実態です。
ただし、ここに大きな見落としがあります。返戻率が50%以下ということは、解約しても払い込んだ保険料の半分程度しか戻ってこないということです。節税効果と将来の資産形成、その両方を狙って保険に入ろうとしていた社長にとっては、どちらか一方をほぼ諦める契約になってしまいます。
「全額損金です」だけで判断すると資金繰りを見誤る
仮に月額50万円の保険に加入したとします。年間600万円の保険料が全額損金になると聞いて安心していたら、実は最高解約返戻率が65%の商品で、実際に損金にできたのは保険料の4割だけだった、というケースは珍しくありません。
差額の360万円は資産計上され、想定していたはずの節税効果は当初の見込みより大きく縮みます。決算の直前になって顧問税理士から指摘され、青ざめる社長を何人も見てきました。
契約前に確認していれば、保険ではなく別の節税策や設備投資に資金を振り向けるという判断もできたはずです。
提案を受けたら、この2つだけ聞いてください
保険担当者から「全額損金です」と説明を受けたら、次の2点さえ確認すれば十分です。
- この商品の最高解約返戻率は何%か
- その返戻率で、実際に損金にできる割合は何%か
この2つに即答できない担当者であれば、令和元年改正後のルールを正確に理解しないまま提案している可能性があります。契約書にサインする前に、その場で数字を出してもらうことをおすすめします。
「全損保険」という言葉自体は死語になっていませんが、中身はまったくの別物になっています。もし今、全額損金をうたう提案を受けているなら、契約前に顧問税理士へ最高解約返戻率を確認してもらうところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。