先月、取引先の保険代理店から名刺交換をした社長から、こんな相談を受けました。「がん保険に法人で入れば、保険料が全額経費になるって言われたんですが、本当ですか」。
聞けば、提案書には「全額損金算入」という言葉がしっかり書かれていたそうです。ただ、その提案書の日付を見て少し引っかかりました。令和元年、つまり2019年の税制改正のことが一切触れられていなかったからです。
がん保険は「第三分野」という別枠の保険
法人保険には大きく分けて、死亡保障中心の「第一分野」、損害保険中心の「第二分野」、そしてがん保険や医療保険が属する「第三分野」があります。
かつてこの第三分野の保険は、養老保険や逓増定期保険と違うルールで扱われていました。解約返戻金が低めに設計されている商品が多く、保険料をほぼ全額損金にできる時期が長く続いていたのです。多くの保険代理店が「がん保険なら節税と保障が両立する」と営業してきたのは、この時代の名残です。
令和元年改正で何が変わったか
その前提が2019年の国税庁通達改正で崩れました。改正のポイントは、第三分野の保険についても、他の保険商品と同じ「解約返戻率に応じた資産計上ルール」が適用されるようになったことです。
具体的には、最高解約返戻率が50%を超える商品は、その水準に応じて保険料の一部を資産計上しなければなりません。返戻率が70%を超えれば資産計上の割合はさらに上がり、全額損金にできる範囲はかなり限定されます。
たとえば年間200万円のがん保険料を払っていて、返戻率が75%相当の商品だった場合、資産計上が必要な部分が発生し、実際に損金として使えるのは全体の一部にとどまります。「全額が経費になる」という前提そのものが、返戻率次第で崩れる設計になったわけです。
払い方によっても扱いが変わる
さらにややこしいのが、保険料の払い込み方法です。全期払いか、短期払い(保険期間より短い期間で払い込みを終える方式)かによっても、資産計上の考え方が変わってきます。
短期払いは一定期間に保険料が集中するぶん、資産計上の割合が高くなりやすい傾向があります。「短期間で払い終えて、あとは保障だけ残したい」というニーズに合う一方、節税効果を主目的にすると期待外れになりがちです。
保障は必要、でも節税目的なら見直しを
ここで大切なのは、がん保険そのものが不要という話ではないということです。経営者が病気で長期離脱した場合の保障、退職金の準備手段としては、今でも十分に機能します。
問題なのは「節税のために入る」という動機づけです。改正前の全額損金という前提で契約や提案を続けている代理店が、今も一定数存在します。提案を受けたときは、「この商品の最高解約返戻率は何%ですか」「資産計上が必要な部分はありますか」の2点を、遠慮なく聞いてみてください。答えに詰まるようなら、その提案は古いルールのままです。
すでに加入している契約についても、証券を引っ張り出して資産計上の状況を確認しておくと、決算前に慌てずに済みます。保障として続けるのか、見直すのか、一度税理士と一緒に棚卸ししてみるのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。