先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「保険会社の担当者から、ドル建ての保険を勧められたんです。利回りも良くて、しかも全額損金になるって言うんですが、本当でしょうか」

結論から言うと、損金算入のルールは円建てもドル建ても同じです。返戻率が高くなるほど資産計上部分が増え、全額を損金にできる保険はほとんどありません。ここを勘違いしたまま契約すると、決算のタイミングで思わぬ計上ミスに気づくことになります。

損金算入のルールに通貨は関係ない

法人保険の損金算入割合は、最高解約返戻率によって区分が決まります。返戻率50%以下なら全額損金、70%超なら段階的に資産計上部分が増える、というルールは国税庁の通達で定められたもので、円建てかドル建てかは一切関係ありません。

営業担当者の中には「ドル建てだから利回りが高い分、損金メリットも大きい」と説明する人がいますが、これは誤解を招く言い方です。むしろ利回り(返戻率)が高い商品ほど、資産計上される割合が増えて、損金にできる金額はかえって小さくなります。

見落とされがちな為替リスク

ドル建て保険の本当の論点は、実は損金割合ではなく為替にあります。保険料をドルで払い込み、解約返戻金もドルで受け取る商品が大半なので、契約時と解約時の為替レートの差が、そのまま損益に直結します。

たとえば1ドル150円のときに保険料を払い込み、解約時に1ドル110円まで円高が進んでいたとします。ドルベースでは想定通りの返戻率が出ていても、円換算すると想定より2〜3割目減りする、というケースは珍しくありません。保険の「予定利率」はあくまでドルベースの数字であり、円での手取り額を保証するものではない、という点を担当者はあまり強調してくれません。

実際に、退職金の原資として8年満期のドル建て保険に加入した製造業の社長がいました。契約時のレートは1ドル145円。ところが解約予定だった年に急速な円高が進み、1ドル125円まで下落。ドルベースの返戻率は計画通り108%でしたが、円換算では契約時の想定額を1割以上下回り、退職金の一部を借入で補う事態になりました。

解約時の差損益、税務処理も要注意

為替差損益の扱いも見落とされがちなポイントです。解約時にドル安(円高)が進んでいれば為替差損が発生し、逆にドル高であれば為替差益が発生します。この差損益は保険差益とは別に、法人税の計算上も認識する必要があります。

特に注意したいのは、解約のタイミングを保険の返戻率だけで判断してしまうケースです。「返戻率がピークになったから今解約しよう」と決めても、その時の為替レートが不利であれば、円換算の受取額はピークにならない、という事態が起こります。退職金の原資として計画していた場合、想定額に届かず資金繰りが狂うリスクもあります。

為替ヘッジ付きでも安心はできない

最近は為替ヘッジ付きのドル建て保険も増えていますが、ヘッジコストが発生する分、実質利回りは目減りします。パンフレットに書かれている予定利率が、ヘッジコスト控除後の数字なのかどうかは、契約前に必ず確認しておきたいところです。

ドル建て保険そのものが悪いわけではありません。円資産に偏ったバランスシートを分散させる、という意味では合理的な選択にもなり得ます。ただし、営業トークの「利回りが高い」「損金にもなる」という言葉だけを鵜呑みにせず、為替リスクと解約タイミングの2点は、契約前に必ず顧問税理士と一緒に確認しておくことをおすすめします。

まだドル建て保険を検討中で、為替リスクのシミュレーションをしていないなら、契約前に一度、円換算での最悪シナリオを試算しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。