先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。決算対策で中古の高級車を購入して全額経費にしたところ、翌年の税務調査で「これは私用車ではないですか」と指摘され、結局は経費の大半を否認されてしまったというのです。
本人としては「節税テクニックとしてよく聞く話だから」という軽い気持ちだったそうですが、税務署からすれば、この手の経費計上は最も見慣れたパターンの一つです。
なぜ中古車の経費計上は狙われるのか
中古の高級車、特に減価償却期間が短くなる年式の古い車を経費にする節税法は、書籍やネットでも広く紹介されています。ただし、それだけ広く知られているということは、税務署側にとっても「よくある否認パターン」として認識されているということです。
調査官の視点に立てば、決算期末近くに購入された高級中古車、しかも社長個人の自宅や日常の移動に使われていそうな車種は、まず疑ってかかる対象になります。合法的な節税と、単なる利益圧縮のための経費計上は、傍から見ると非常に似ているからです。
家事按分の甘さが命取りになる
ここで実務上、最も否認されやすいのが家事按分の部分です。中古車を法人名義で購入し、事業でも使っているのは事実だとしても、実際には家族の送り迎えや週末の買い物にも使っている、というケースは少なくありません。
この場合、事業使用割合を何となく「8割」と申告してしまうと、走行記録や使用実態の裏付けがない限り、調査で崩されます。実際、按分割合の根拠を聞かれて答えに詰まる社長は非常に多いのです。
按分の根拠として有効なのは、走行距離のログ、使用目的ごとのスケジュール記録、そして他に社用車や社長個人の車が別途あるかどうかといった周辺事実です。これらが揃って初めて、8割という数字に説得力が生まれます。逆にこれらがないまま高い按分割合を主張すると、按分自体が否認され、経費計上額がゼロ査定に近い形で戻されることもあります。
合法と否認の境界はどこにあるか
節税と否認の境界線は、実は制度そのものよりも「証拠を残しているかどうか」にあります。中古車を経費にすること自体は違法でも何でもありません。問題は、事業用であることを裏付ける記録がないまま、慣習的に使われている節税法だからという理由だけで実行してしまうことです。
私が相談を受けた社長のケースでも、税理士から「按分の根拠資料を用意してください」と言われていたにもかかわらず、後回しにしていたことが後々の否認につながりました。節税策そのものよりも、その運用の詰めの甘さが命取りになったわけです。
過度な節税、つまり利益を大きく圧縮するタイプの節税ほど、調査ではまず疑いの目を向けられます。だからこそ、経費計上する側にも「なぜこれが事業経費として認められるのか」を説明できる材料を、購入した時点から準備しておく姿勢が求められます。
中古車の節税を検討している経営者の方は、購入前に走行記録の管理方法と按分の根拠をどう残すか、顧問税理士と一緒に決めておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。