先日、ある卸売業の社長からこんな相談を受けました。「保険の営業さんに、この保険なら全額損金で節税になりますよと勧められたんですが、まだ契約はしていません」と。
話を聞くと、担当者は返戻率の高さと節税効果を熱心に説明してくれたそうです。ただ、肝心の「その後どうなるか」には触れていなかったといいます。
結論から言うと、その営業トークにはかなりの部分で古い情報が混ざっています。令和元年の税制改正以降、保険で全額損金という発想自体が通用しにくくなっているからです。
令和元年改正で「全額損金」は過去のものに
2019年、国税庁は法人保険の損金算入ルールを大きく見直しました。それまでは、解約返戻率が高い商品でも工夫次第で保険料の全額を損金にできるケースがありました。
改正後は、最高解約返戻率が50%を超える保険について、返戻率の水準に応じて資産計上する割合が細かく定められています。例えば返戻率70%超85%以下なら保険料の60%を資産計上し、残りだけが損金という具合です。
つまり「全額損金で節税」という説明自体、多くの商品ではすでに成り立たないのです。契約前に、その保険が改正後のどの区分に当てはまるのかを確認する必要があります。
解約すればお金が戻る、その先に何が待っているか
保険営業がよく口にするもう一つの殺し文句が「解約すれば払った分は戻ってきますから」というフレーズです。これも半分しか真実を語っていません。
解約返戻金は、法人が受け取った時点で全額が雑収入として益金に計上されます。損金にしてきた分と合わせて考えると、単に税金を払うタイミングを先送りしていただけ、というのが実態です。
仮に返戻率がピークの年に3,000万円が戻ってきたとしても、その年の利益にそのまま乗るため、法人税等でおよそ3割から4割が持っていかれます。「戻ってくる」という言葉の響きほど、手取りは残りません。
出口設計がなければ、ただの繰り延べ
ここが最も見落とされがちなポイントです。保険による節税は、入口で軽くした税金を、出口でどう相殺するかまでセットで考えて初めて意味を持ちます。
代表的な出口は役員退職金です。解約返戻金が入ってくる事業年度に合わせて退職金を支給すれば、益金と損金がぶつかり合い、実質的な税負担を抑えられます。設備投資のタイミングをぶつける方法もあります。
逆に言えば、出口の計画がないまま契約している保険は、いずれ大きな益金が発生することが確定しているだけの契約とも言えます。加入時に「いつ、何にぶつけて解約するか」まで決めていないなら、それは節税ではなく先送りです。
保険提案は「その先」まで聞く
保険営業の担当者を責めるつもりはありません。彼らの仕事は契約を取ることであり、税務の細部まで説明する義務は本来別のところにあります。
ただ、最終的にその保険で得をするのか損をするのかを判断するのは、会社であり社長自身です。「全額損金」「解約すれば戻る」という言葉が出てきたら、まずは出口設計がセットで提示されているかを確認してください。
もし今、加入を検討している保険があるなら、契約書にサインする前に顧問税理士へ一度相談し、解約時期と益金の見込み、それにぶつける損金の候補まで含めて確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。