先日、フリーランスのWebデザイナーをされている方からこんな相談を受けました。「今年の利益がおそらく600万円を超えそうで、税金がかなり増えそうです。そろそろ法人化を考えたほうがいいでしょうか?」

実はこれ、事業が軌道に乗り始めた個人事業主の方から、本当によくいただく質問です。売上が増えてきた喜びの裏側で、確定申告のたびに税負担の重さを実感している方は多いのではないでしょうか。

個人事業主の税率は、利益が増えるほど重くなる

個人事業主の場合、事業の利益はそのまま「事業所得」として所得税・住民税の課税対象になります。所得税は累進課税なので、稼げば稼ぐほど税率が上がる仕組みです。

利益が500万円を超えてくると、所得税と住民税を合わせた実質的な税率が20%台後半になることは珍しくありません。さらに国民健康保険料も所得に連動して増えるため、「売上は増えたのに手元に残るお金が思ったより少ない」と感じる方が続出します。

法人化すると、なぜ税負担が下がるのか

法人にした場合、利益に対してかかる法人税の実効税率は、所得800万円以下であれば**約22%**です(中小企業の軽減税率が適用される場合)。

しかしここで重要なのは、法人化すると自分への役員報酬を経費として計上できるという点です。たとえば会社の利益600万円のうち500万円を役員報酬として自分に払えば、給与所得控除(最低でも55万円)が適用されます。同じ金額を個人の事業所得として丸ごと課税されるより、全体の税負担を抑えられるわけです。

ざっくりとした試算では、利益が600万円前後を超えてくると、法人化による節税額が維持コストを上回り始めるケースが多くなります。

コストの話も、セットで理解しておく

ただし、法人化は「とにかく節税になる」という話ではありません。維持するための固定費が必ず発生するからです。

代表的なものを挙げると、まず社会保険。法人では強制加入になるため、会社負担分の保険料が新たに発生します。次に税理士報酬。個人の確定申告より法人決算のほうが複雑で、報酬も上がります。加えて登記費用や各種手続きコストも積み重なります。

これらを合算すると、法人を維持するだけで年間30〜50万円程度かかることはざらにあります。つまり「法人化による節税額」が「このコスト」を上回らないと、トータルでは割に合わない、ということです。

「600万円」は目安であって、絶対ではない

よく言われる目安が「利益600万円」ですが、これは人によってかなり変わります。

扶養家族の有無、住んでいる自治体の国保料率、消費税の課税事業者かどうか、今後の売上見通し——こうした条件次第で、損益分岐点は500万円になることも、700万円になることもあります。「ネットで読んだから600万円が基準」という理解だけで動くのは少し危険です。

大切なのは、自分の数字で試算してみること。現状の利益構造と今後の見通しをざっくり整理したうえで、税理士に具体的な試算を依頼するのが一番確実です。

先延ばしにするほど、損をする

「利益が700万円を超えたら考えよう」と先延ばしにしていると、その間の税負担の差額がそのまま機会損失になります。年間30〜40万円の節税効果があるとすれば、2〜3年の先延ばしで100万円近い差がつくこともあります。

今期の利益が600万円に近づいてきたと感じているなら、決算が終わる前に一度、税理士に試算を依頼してみてください。「まだ早い」と言われたらそれはそれでOK。「今すぐ動くべき」という判断になれば、その分だけ早く手取りを増やせます。

動くなら、早いほど得です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。