先日、フリーランスでWebマーケティングの仕事をしている30代の男性から、こんな相談を受けました。「売上が500万円を超えてきて、知り合いの経営者から『そろそろ法人にした方がいい』と言われたんですが、正直よくわからなくて」
この「よくわからない」という感覚は、多くの個人事業主の方が持っています。でも実は、年収500万円前後というのは、法人化を真剣に検討するタイミングとして非常に重要な境目なんです。
個人事業主の税負担、正直に見てみよう
個人事業で年間の所得(収入から経費を引いた額)が500万円ある場合、実際にどれくらい税金がかかるか整理してみましょう。
青色申告をしていれば65万円の特別控除が使えます。基礎控除の48万円も差し引いて、課税所得はおおよそ380万円前後。このあたりに所得税率20%が適用されるので、所得税だけで60〜70万円程度かかります。
さらに住民税(課税所得の約10%)、個人事業主だけが課される個人事業税(事業所得から290万円を引いた額に税率5%)も加わります。国民健康保険料も所得に連動して上がっていきます。
税金と社会保険料を合わせると、500万円の所得から180〜200万円近くが消えることも珍しくありません。「こんなに稼いでいるのに、手取りが少ない」と感じているなら、その感覚は正しいかもしれません。
法人にすると何が変わるのか
法人を設立して自分を「役員」にし、役員報酬として給与を受け取る形にすると、大きく2つの変化が起きます。
1つ目は、給与所得控除が使えるようになること。
役員報酬が500万円なら、自動的に154万円が控除されます。個人事業主の青色申告特別控除(65万円)より90万円近く大きい控除です。課税ベースが下がる分、所得税・住民税の負担がそれだけ軽くなります。
2つ目は、法人の利益に適用される税率の違いです。
たとえば役員報酬として400万円を自分に払い、法人に100万円の利益を残した場合、その100万円には法人税・法人住民税・事業税を合わせた実効税率が適用されます。中小企業の年800万円以下の所得なら、この実効税率はおおよそ22%前後。個人の所得税最高税率45%(住民税10%を合わせると55%)と比べると、大きな差です。
法人に利益を残すことで、翌年の設備投資や採用コストとして活用する戦略も取りやすくなります。
年収500万円が「損益分岐点」になる理由
法人化にはコストもかかります。主なものを整理すると、法人住民税の均等割(赤字でも年7万円)、厚生年金への強制加入(会社負担分が増える)、税理士顧問料の増加、そして法人設立時の登記費用(25万円前後)などです。
これらのコストを差し引いても、年収が500万円前後を超えてくると、法人化による節税メリットが上回るケースが増えてきます。シミュレーションをすると、年間100〜200万円の手取り差が出ることもあります。
逆に年収300万円台だと、維持コストで節税分を食いつぶしてしまう「逆転現象」が起きることも。「法人を作ったのに、かえって手取りが減った」というパターンは実際にあります。
「法人化すれば得」とは限らない
注意点も正直にお伝えします。年収500万円だからといって、全員が法人化すべきというわけではありません。
本業が会社員で副業として個人事業をやっている場合、家族構成や扶養控除の状況によっては個人の方が有利なこともあります。また事業の波が激しく、来年の売上が読みにくい段階では、法人の固定コストが重荷になる可能性もあります。
「知り合いが法人にして節税できた」「税金が高いから法人にすれば解決」という安易な判断は禁物です。一般論ではなく、自分の数字で考えることが大切です。
まず「あなたの数字」で試算してみて
法人化の判断で大切なのは、自分の数字で比較することです。直近の確定申告書と来期の収入見通しを持って税理士に相談すると、「あなたの場合は法人化で年○○万円違います」という具体的な数字が出てきます。
年収500万円前後で手取りに不満を感じているなら、まずは試算だけでも依頼してみてください。数字を見てから決断しても遅くはありません。そして試算の結果、法人化が有利と判断できたなら、早い方がよいのも確かです。節税できる期間が長いほど、トータルの差は大きくなりますから。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。