「毎年110万円ずつ子どもに贈与してるから、相続税は大丈夫です」

先日、資産3億円超の製造業の社長がそう胸を張っておっしゃっていました。でも少し会話を続けると、わかりました。2024年の税制改正のことを、ほとんど把握されていなかったのです。

「知っている」と「正しく知っている」は、税金の世界ではまったく別物です。

暦年贈与の「3年ルール」はもう終わった

従来、亡くなる前3年以内の贈与は相続財産に「持ち戻し」されて、相続税の対象になるというルールがありました。

ところが2024年1月以降の贈与から、この期間が最大7年に延長されました。経過措置があるため段階的に延びていきますが、2031年以降に亡くなった場合は、丸々7年分が持ち戻される計算になります。

たとえば、毎年110万円を3人の子どもに贈与していたとします。3年ルールなら持ち戻し額は最大990万円。7年ルールでは最大2,310万円が相続財産に戻ってきます。

差額は1,320万円。税率30%のゾーンなら、税負担が約400万円増える計算です。贈与の「安心感」が、実は根拠のないものになっていたわけです。

基礎控除3,600万円を超える構成は、意外と多い

「うちはそんなに資産がないから関係ない」とおっしゃる社長は多いのですが、中小企業オーナーの資産は複合的です。

相続の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 相続人の数」。相続人がお子さん1人なら、3,600万円が上限です。

冒頭の社長を試算してみると、会社株式の評価額が1.5億円、自宅土地が5,000万円、預貯金が3,000万円で合計約2.3億円。基礎控除を大きく超え、相続税がしっかりかかる規模でした。

会社を経営していると「自分は資産家ではない」と感じていても、株式評価を加えると相続財産が跳ね上がるケースは少なくありません。「会社は子どもに継がせるから関係ない」という感覚も、実は危険です。自社株の評価額は、相続税の計算上ちゃんとカウントされます。

相続時精算課税制度が「使える」制度に変わった

こうした状況で今注目されているのが、相続時精算課税制度への切り替えです。

2024年の改正で、この制度に年110万円の基礎控除が新設されました。以前は年間非課税枠がなく「使い勝手が悪い」と敬遠されてきましたが、今は話が変わっています。

この制度を選ぶと、毎年110万円以内の贈与は贈与税も相続加算もかかりません。金額は暦年贈与と同じですが、7年の持ち戻しルールが適用されないのが大きな違いです。

ただし注意点もあります。一度選択すると、同じ贈与者からの贈与については暦年贈与に戻れません。110万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかり、相続時に精算する仕組みになります。「毎年110万円だけを非課税で渡したい」という目的であれば有利になるケースが増えていますが、贈与総額や将来の相続規模によっては話が変わります。どちらが有利かは、個別の事情次第です。

今すぐ確認してほしいこと

2026年現在、すでに7年ルールへの移行期間の中にいます。今年以降の贈与が、将来の相続税に直結する時代です。

まず手をつけたいのは、現状の整理です。いつから・誰に・いくら贈与してきたか。おおよその相続財産総額(自社株評価込み)はいくらか。相続人の数と構成はどうか。この3点を把握した上で、どちらの制度が有利かを専門家と試算することになります。

「贈与しているから安心」ではなく、「今の方法が本当に正しいか」を確認することが、本当の節税につながります。まだ相続専門の税理士に相談していないなら、今期中に一度、贈与と相続の設計を見直しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。