「退職金って、税金でごっそり持っていかれるんですよね?」
先日、創業28年の建設会社の社長からこんな質問を受けました。3000万円の退職金を準備しているのに、税金がいくらかかるか分からなくて、なかなか踏み切れないとのこと。その気持ち、とてもよく分かります。
でも実は、退職金には給与とはまったく異なる特別なルールがあります。これを知っているかどうかで、手元に残るお金が何百万円も変わってくるのです。
退職金に認められた「二段階の優遇」
退職金に適用されるのが「退職所得控除」という制度です。勤続年数に応じた金額を、まるごと課税対象から外せる仕組みです。
計算式はシンプルで、勤続20年までは1年につき40万円、20年を超えた部分は1年につき70万円が控除されます。勤続30年なら、800万円(20年分)+700万円(10年分)=合計1500万円が控除枠になります。
ここまでなら「まあそれなりに有利だな」という印象かもしれません。でも退職所得にはもう一段、優遇があります。控除後の残額をさらに「半分」にしてから税率をかけるのです。
3000万円の退職金、課税されるのは750万円だけ
先ほどの数字で計算してみましょう。退職金3000万円・勤続30年のケースです。
3000万円から退職所得控除1500万円を引くと、残りは1500万円。これをさらに2で割ると750万円。これが実際に税率をかける「課税退職所得」です。
同じ750万円を給与として受け取った場合と比べると、その差は一目瞭然です。給与所得控除があるとはいえ、課税所得は大きく残ります。退職金という形にするだけで、税負担が劇的に軽くなる。これが退職所得控除の本当のインパクトです。
会社側にも「もうひとつの節税」がある
ここが多くの社長に見落とされているポイントです。
退職金は、支払った会社の側でも全額を損金(経費)として計上できます。社長個人の税負担を抑えながら、法人税も下げられる「二重の節税」が実現するわけです。
年間利益が大きい会社ほど、この損金算入の効果は大きくなります。法人実効税率が30%の会社なら、3000万円の退職金支給で900万円の法人税が減少します。個人側の節税と合算すると、同じ金額を役員報酬として毎年払い続けた場合とは、相当な差が出てきます。
鍵は「勤続年数の積み上げ」と「事前準備」
退職所得控除の恩恵を最大限に受けるには、勤続年数をいかに長く積み上げるかが重要です。役員就任の日からカウントが始まるため、「まだ先の話」と思っている社長ほど、早めに把握しておくべきです。
また、役員退職金の妥当性は「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式で判断されます。税務調査で「過大退職金」と指摘されると損金算入が否認されるリスクもあるため、金額の根拠を整理した「役員退職慰労金規程」を整備しておくことが必要です。
退職金の原資をどう積み立てるかも、早めに検討したいところです。小規模企業共済(月最大7万円、掛け金全額所得控除)や、解約返戻金を退職金原資に充てる生命保険の活用など、今から仕込むほど効果が大きくなります。
冒頭の社長には、退職金規程の整備と小規模企業共済への加入を今期中に検討するようご提案しました。「こんなに有利な仕組みがあったとは」と、驚いた様子でした。
知っているか知らないかで、手元に残るお金が大きく変わる——退職金はまさにその典型例です。まだ退職慰労金規程を整備していないなら、ぜひ今期中に税理士と一緒に確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。