先日、年商3億円の設備工事会社を経営する社長から、こんな相談がありました。
「決算を締めてみたら、消費税の納税額が去年より急に増えていて……。何が変わったんですかね?」
話を聞いていくと、原因はすぐにわかりました。外注先の職人さんたちのインボイス登録状況を、一度も確認していなかったのです。
「払った消費税が戻ってこない」という地味な恐怖
消費税には「仕入税額控除」という仕組みがあります。売上にかかる消費税から、仕入れや外注費などで払った消費税を差し引けるものです。
年間の仕入・外注にかかる消費税が150万円あったとして、それが全額控除できるのと、半分しか控除できないのとでは、そのまま75万円の差が出ます。これが納税額に直撃します。
インボイス制度が始まって以来、この控除に条件が加わりました。取引先が「インボイス登録業者」でないと、支払った消費税の一部しか控除できなくなったのです。
2026年10月、控除率がさらに下がる
現時点(2026年9月まで)では、未登録の取引先への支払いでも消費税の**80%**までは控除できます。これは経過措置として設けられた猶予です。
ですが、2026年10月以降はこれが50%に下落します。
年間の仕入消費税が150万円で、その全額が未登録取引先への支払いだったとすると——
- 現在(80%控除):損失30万円
- 10月以降(50%控除):損失75万円
たった数ヶ月で、損失額が2倍以上に膨らむ計算です。「まだ先の話」と思っていると、気づいたときには決算が終わっていた、ということになりかねません。
確認していない社長が、驚くほど多い
ここで正直に聞いてみたいのですが、取引先全員のインボイス登録番号を、今すぐ確認できますか?
請求書にT番号(インボイス登録番号)が記載されているか。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で番号が有効か。この2点を全取引先について把握している社長は、実はそう多くありません。
特に多いのが、以下のようなケースです。
- 長年付き合いのある個人の職人さんや業者に、番号確認を切り出しにくい
- 月次の請求書処理を経理に任せきりで、自分では把握していない
- 「うちの取引先はたぶん登録してるだろう」と根拠なく思い込んでいる
思い込みは禁物です。確認していない=損失が発生しているリスクがある、と考えてください。
今すぐやること、3つだけ
むずかしく考えなくても大丈夫です。まずこれだけやってみてください。
①直近3ヶ月の支払先リストを出す 経理ソフトや会計データから、外注費・仕入れの支払先一覧を出します。件数が多ければ、金額上位から優先して確認しましょう。
②請求書にT番号があるか確認する 請求書の右上や下部に「T+13桁」の番号があればインボイス登録済みです。なければ未登録か、記載漏れの可能性があります。
③国税庁サイトで番号の有効性を確認する 「インボイス登録番号」で検索すると公表サイトが出てきます。番号を入力すれば、有効かどうかすぐわかります。
未登録の取引先にどう対応するか
未登録とわかっても、すぐに取引をやめる必要はありません。長年の取引先であれば関係を壊したくない気持ちもわかります。
選択肢として多いのは、支払額を消費税分だけ値引き交渉するか、差額分を自社でコスト吸収する覚悟を持つか、の2つです。どちらが正解かは取引の規模や関係性によって変わります。
大事なのは「知らなかった」まま放置しないこと。状況を把握した上で、意思決定することです。
まだ取引先のインボイス登録状況を一度も確認していないなら、今月中に確認を終えておくのをおすすめします。10月の制度変更まで、残り時間はあまり多くありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。