先日、不動産会社を経営するオーナー社長から「もしかして、うちの相続対策、全部やり直しですか?」と電話が来ました。
お父様が70代後半で、毎年100万円の暦年贈与を続けていた。それが2024年の税制改正でどんな影響を受けるのか、不安になって連絡してきたそうです。
実は同じような相談が、今年に入って急増しています。
3年から7年へ──倍以上に延びた「持ち戻し期間」
相続税には「持ち戻し」と呼ばれるルールがあります。亡くなる直前の贈与は節税目的のためなかったことにして、相続税の計算対象に加算されるというものです。
2024年1月から、この期間が従来の3年以内から7年以内に拡大されました。
たとえばお父様が76歳で亡くなった場合、69歳から76歳までの7年分の贈与が全額、相続財産に戻って計算されます。毎年100万円なら700万円が加算対象になる計算です。
「3年もつあいだに上手に移転できた」という計画が、「7年経たないと安全じゃない」に変わる。特に親御さんが70代を過ぎている場合、この変更は相当に重くのしかかります。
同じ改正で「救済措置」も生まれた
ただ、同じ2024年改正で見逃せない変更もあります。
相続時精算課税制度に、年110万円の基礎控除が新設されたのです。
この制度はもともと、2,500万円まで贈与時の税負担なしに動かせる代わりに、贈与額が全額相続財産に加算される仕組みでした。「節税にならない」として敬遠されることも多かったのですが、今回の改正で「年110万円以下の部分は加算不要」になりました。
相続時精算課税を選択したうえで年110万円以内の贈与を続ければ、7年ルールの対象にならずに財産を移転できます。これが今のところ、7年ルールを合法的に回避できる唯一の手段です。
10年で1,100万円を動かす試算
具体的に数字で見てみましょう。
70歳の親から子へ、毎年110万円を相続時精算課税で贈与したとします。この基礎控除内の110万円は相続財産に加算されません。10年続ければ1,100万円が完全に非課税で移転できます。
相続税の実効税率が20%のケースなら、単純計算で220万円の節税効果。30%なら330万円です。財産規模が大きいほど、この差は広がっていきます。
使う前に必ず知っておくこと
ただし、相続時精算課税には「取消不可」という大きな縛りがあります。
一度選択すると、その贈与者からの贈与は以後ずっとこの制度が適用されます。「やっぱり暦年贈与に戻したい」と思っても戻れません。110万円を超えた部分は依然として相続財産に加算されるため、大きな金額を動かすときは全体の相続税額を計算したうえで判断する必要があります。
また、父・母の両方から贈与を受ける場合は、それぞれ個別に選択できます。どちらを先に切り替えるかも含め、全体設計を考えることが重要です。
「今すぐ動くべきか」の判断軸
相談を受けていて気づいたのは、「影響が大きい人」と「そうでもない人」がはっきり分かれることです。
今すぐ計画を見直すべきなのは、親が70代以上で相続財産が1億円を超えるケース。7年のカウントダウンはすでに始まっている可能性があります。
一方、親が60代前半でまだ健在、相続財産も5,000万円以下であれば、焦る必要はありません。ただし「今の計画が本当に有効か」を一度確認するだけでも、大きな安心につながります。
まずは直近7年間に行った贈与の総額と、贈与先・贈与方法を整理してみてください。それだけで、税理士への相談の質が大きく変わります。「まだ間に合う」ケースがほとんどですから、不安を抱えたまま放置せずに、早めに動いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。