先日、製造業を営む社長からこんな連絡がありました。「設立のとき、決算月って深く考えずに決めてしまったんですが…まずかったですか?」
その方の年商はすでに4,000万円を超えていました。話を聞いてみると、本来払わなくてもよかったはずの消費税を、設立初年度から納めていたことがわかったんです。
法人には「消費税が2年間かからない」特権がある
個人事業と違い、法人を新たに設立すると、原則として最初の2事業年度は消費税の納税が免除されます。いわゆる「消費税の免税事業者」というやつです。
年商4,000万円なら消費税(10%)だけで年間400万円。2年間の免税期間をフルに使えれば、最大800万円もの消費税が手元に残ります。これは設立時だけに使える、非常に大きな節税チャンスです。
ところが、意外と多くの社長がこの制度を活かしきれていません。その原因が「設立月と決算月の設定ミス」です。
設立月によって免税期間が最大6ヶ月も縮む
問題の核心はここにあります。第1期の長さは設立月と決算月の組み合わせで決まります。
たとえば4月に会社を設立して、最初の決算月を同じ年の4月に設定したとします(「設立月=決算月」にするケースは意外と多い)。この場合、第1期はたったの1ヶ月。第2期も翌年4月で終わるため、免税期間は実質1年と1ヶ月しかありません。
一方、4月設立で決算月を翌年3月(11ヶ月後)に設定すれば、第1期が丸々12ヶ月になります。第2期も同様に12ヶ月。これで免税期間は最長24ヶ月、つまり2年間まるごと確保できます。
同じ4月に設立した会社なのに、決算月の設定一つで最大6ヶ月の差が生まれるわけです。
年商4,000万円なら、その差は200万円
消費税10%を前提にすると、年商4,000万円の会社が6ヶ月分の免税期間を失うと、約200万円を余分に納税することになります。
会社設立の書類を作るとき、「とりあえず決算月は何月にしますか?」と聞かれて、なんとなく設立月や3月・12月にしてしまう方が多いんです。でもその一言の答えが、200万円という差を生み出すことがあります。
シンプルなルールは一つ。設立月の11ヶ月後を決算月に設定する。これだけです。4月設立なら3月決算、7月設立なら6月決算。これで第1期が最長の12ヶ月になります。
3つの注意点:免税が使えないケース
ただし、この免税制度には条件があります。当てはまると初年度から課税事業者になってしまうので、必ず確認しておいてください。
一つ目は資本金の金額です。設立時の資本金が1,000万円以上になると、設立初年度から消費税の課税事業者になります。「余裕を持って大きな資本金で」という気持ちはわかりますが、消費税の観点では999万円以下が得策です。
二つ目は特定期間の売上です。設立から6ヶ月間の課税売上高が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります。急成長しているビジネスでは注意が必要です。
三つ目はインボイス登録です。適格請求書発行事業者(インボイス登録)をすると免税の恩恵がなくなります。BtoB取引が多く、取引先からインボイスを求められているケースでは、登録の要否を慎重に判断する必要があります。
設立前に税理士と話しておくべき理由
会社設立は司法書士や行政書士の専門領域ですが、設立月・決算月・資本金の決定には税理士の視点が絶対に必要です。
設立後に「あの決算月にしておけばよかった」と後悔しても、すでに失った免税期間は戻りません。変更の手続き自体はできても、過去に払った消費税は返ってこないのです。
これから法人設立を考えている方、あるいは知人が起業を検討しているという方に、ぜひ伝えてほしいことがあります。「設立後に顧問税理士を探せばいい」ではなく、設立前に一度相談すること。たった1回の相談で、数百万円単位の差が生まれることは珍しくありません。
特に個人事業から法人成りをするタイミングは、消費税免税の設計を含めて税務戦略を見直す絶好の機会です。まだ設立前であれば、今すぐ税理士に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。