先日、こんな相談を受けました。
「売上が1,000万円を超えてきたんですけど、そろそろ法人化した方がいいですか?」
開業5年目のコンサルタントの方からのご質問です。聞けば、個人事業主のまま順調に売上を伸ばしてきたものの、「なんとなく法人の方がお得そう」という程度の認識でした。
この「なんとなく」を放置すると、年間100万円単位で損することがあります。しかも怖いのは、気づかないうちに損し続けているという点です。
年商1,000万円超えで消費税の時計が動き始める
まず消費税の話から始めましょう。
個人事業主として年間の売上が1,000万円を超えると、原則として2年後から消費税の納税義務が発生します。2024年に初めて超えたなら、2026年から消費税を納めることになります。
ここで法人を新しく設立するとどうなるか。要件を満たす新設法人は、最大2年間、消費税が免税になるケースがあります。つまり、適切なタイミングで会社を設立すれば、消費税の「カウンターをリセット」できるわけです。
年商1,200万円の事業者なら消費税は単純計算で約120万円。それが2年間免税になる。この金額、軽く見ていると痛い目にあいます。
所得税と法人税、税率の差が「年100万円」を生む
消費税だけではありません。所得税の差額も、長期的にはもっとインパクトがあります。
個人事業主の所得税は累進課税です。課税所得が700万円を超えると税率は33%に跳ね上がり、住民税10%と合わせると実質43%以上が税金として消えます。所得が1,000万円を超えてくると、合計55%近くに達することもあります。稼げば稼ぐほど、手元に残るお金の割合が減っていく仕組みです。
一方、法人の場合。所得800万円以下の中小法人なら、法人税・地方税を合わせた実効税率は**約22〜25%**に抑えられます。
年間利益600万円のケースで比べると、個人のままなら所得税+住民税で200万円以上かかることがあります。同じ利益を法人で得て役員報酬を適切に設計した場合、実質的な税負担を130万円台まで抑えられることも。差額は年間70〜100万円。10年続ければ700万〜1,000万円の差になります。
「法人化する」だけでは足りない。タイミングがすべて
ここで多くの方が見落とすのが、いつ法人化するかという問題です。
法人化は、決算期の直前に行うのがセオリーです。理由はシンプルで、年の途中まで個人事業主として稼いだ所得は、その年の個人の所得税がかかるからです。
仮に12月決算で法人を設立するなら、設立タイミングは12月がベストです。4月に設立してしまうと、1〜3月の3ヶ月分は高い税率でそのまま課税されます。さらにその年の法人の事業年度も短くなり、節税効果が薄まります。
「来年でいいか」と先延ばしにすると、1年分丸ごと高い税率を払い続けることになる。年100万円の差があるなら、1年の先延ばしは文字通り100万円の損失です。
法人化を検討する前に確認したい4つのポイント
もちろん、法人化がすべての人に有利なわけではありません。設立・維持コストや手続きの煩雑さも現実として存在します。
- 売上規模:個人よりも法人が有利になる目安は年商800万〜1,000万円以上
- 利益率:売上が高くても利益が薄いとメリットが小さい
- 社会保険:法人化すると強制加入になり、会社負担分のコストが発生する
- 消費税の設計:免税の恩恵を最大化するには、資本金額や設立タイミングの設計が必要
特に消費税の免税については、資本金の額や特定期間の売上によって判定が変わるため、単純に「新設だから免税」とはならないケースもあります。
損をしてから気づいても、取り返せない
「もっと早く法人化しておけばよかった」という後悔は、思っている以上によく聞く話です。
年商1,000万円を超えたタイミングは、一つのシグナルです。そこから「いつ、どんな設計で法人化するか」を考え始めることが、数年後の手取りに直結します。
理想は決算の3〜6ヶ月前に動き出すこと。ギリギリだと設立手続きが間に合わなかったり、最適な設計が取れなかったりします。今の売上規模と利益率を持って、税理士に「個人と法人の税負担シミュレーション」を依頼してみてください。数字を見れば、迷いはなくなるはずです。
まだ法人化を漠然と「いつかやること」にしているなら、今期中に一度プロに相談するのをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。