先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から電話がかかってきました。開口一番、「税務調査が入って、去年の経費をかなり否認されそうなんです。追徴が500万円近くになるかもしれないと言われて……」。

話を聞いていくと、調査当日に何気なく口にした一言が、調査官の目を一気に引きつけてしまったようでした。悪意はまったくなかった。ただ、「正直に話せばいい」と思って口を開いた、その一言が命取りになったのです。

「プライベートでも少し使いました」

税務調査で調査官が真っ先に確認するのは、経費の業務目的です。車両費、交際費、旅費――これらは「業務で使った」という証明がなければ、原則として損金に算入できません。

冒頭の社長が口にしたのは、車のことを聞かれたときのひと言でした。「この車ですか? 週末にプライベートでも少し使いましたよ」。

たった一言です。でも調査官の立場からすると、これは「事実確認が取れた」というサインになります。その後、車両関連の経費全額について「業務使用割合の証明」を求められ、走行日誌がなかったため大部分が否認されることになりました。

否認額はこう膨らんでいく

経費が否認されると、何が起きるのか。数字で整理しておきましょう。

仮に車両関連経費200万円のうち150万円が否認されたとします。法人税率を約30%とすれば、本税の増加は45万円。「そのくらいなら」と思うかもしれませんが、ここからが本番です。

過少申告加算税として、本税の10〜15%が上乗せされます。さらに、意図的な隠蔽や仮装があったと判断されると重加算税35%が適用されます。加えて、修正申告が確定するまでの期間、延滞税が日割りで積み上がります。

複数年にわたって同じ問題が指摘されれば、本税・加算税・延滞税の合計が500万円を超えることは決して珍しくありません。「ちょっとした発言」が、最終的にこれだけの金額に化けるのです。

「だいたいそれくらいだと思います」も危ない

二つ目の危険な発言は、曖昧な数字の回答です。

調査官は必ず根拠を聞いてきます。領収書の金額、日付、誰と行ったか、何のための支出だったか。ここで「だいたいこれくらいだと思います」と記憶頼りに答えると、「記録がない=業務目的が証明できない」という判断材料になってしまいます。

記録がなければ「確認してから回答します」と答えるのが正解です。これは逃げではありません。プロの対応です。調査官も、記憶ではなく記録に基づいた回答を求めています。その一言を言えるかどうかで、調査の流れは大きく変わります。

「うちではよくやってます」が最も怖い

三つ目の落とし穴は、慣行を認める発言です。

「この経費の処理ですか? うちではよくやってますよ」。この一言を口にした瞬間、調査官の頭には「過去の事業年度でも同様に処理していた可能性がある」というフラグが立ちます。さかのぼって複数年の調査が始まれば、追徴額は単年の比ではなくなります。

処理の正当性を主張したいなら、税理士を通じて根拠となる法令・通達を示すのが筋道です。感覚的な発言で「うちは合ってる」と説明しようとすると、むしろ調査官の疑念を深めることになります。

税務調査の前にやっておくこと

税務調査の通知が届いたら、まず税理士に連絡して「想定問答」を準備することをおすすめします。何を聞かれるか、何を答えるべきか、何を答えるべきでないかを事前に整理しておくだけで、調査の結果は大きく変わります。

とくに意識してほしいのはこの三点です。回答に迷ったら「記録を確認してから回答します」と言うこと。業務とプライベートが混在する資産については、使用割合の根拠を事前に整理しておくこと。過去の処理方針についての発言は、必ず税理士の同席のもとで行うこと。

「正直に全部話せばいい」という姿勢自体は正しいのですが、誠実に答えることと、証拠のない発言をすることはまったく別の話です。


税務調査は、準備した会社と準備していない会社で結果が大きく変わります。まだ一度も調査対応のシミュレーションをしたことがないなら、今期中に税理士と一度想定問答を練っておくことを強くおすすめします。備えがあれば、何気ない一言で500万円を失う事態は十分に防げます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。