先日、横浜でIT系の会社を経営しているAさんから、こんな話を聞かせてもらいました。
「三原さん、去年やっと法人を作ったんですが……8年早くやっておけばよかったと、本当に後悔しています」
Aさんの年商は約7,000万円。フリーランスとしてスタートし、気づけば社員も抱える規模になっていました。それでも「法人化は手続きが面倒」「今のままでも事業は回っている」という理由で、ずっと個人事業主のままでいたのです。
個人と法人、税率の差は最大32ポイント
日本の所得税は累進課税です。課税所得が900万円を超えると税率は33%、1,800万円超で40%。住民税の10%を加えると、最高税率は**55%**まで上がります。
一方、法人の実効税率はどうでしょう。所得800万円以下の部分であれば、法人税・地方法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率は**約23%**です。
Aさんの利益規模では、この差が年間約300万円になっていました。
8年間で計算すると……2,400万円以上です。
その数字をお伝えしたとき、Aさんは「言わないでください」と苦笑いしていました。
「面倒くさい」が一番高くつく
法人化を躊躇う理由は、だいたい決まっています。「設立費用がかかる」「決算申告が複雑になる」「社会保険に加入しないといけない」——どれも事実です。法人になると事務的な手間が増えることは確かです。
でも少し冷静に考えてみてください。
設立費用は合同会社なら約10万円、株式会社でも30万円前後。税理士への顧問料が月3〜5万円増えたとしても、年間で見れば60万円以下です。それで毎年300万円の節税になるなら、費用対効果は明らかです。
Aさんが「面倒くさい」と先送りにした8年間のコストは、その何十倍にも膨れ上がっていたわけです。
法人化を検討すべき「シグナル」
では、どのタイミングで法人化を検討すればいいのか。ひとつの目安として、課税所得が年700万円を超えたときと覚えておいてください。
この水準を超えると、所得税の税率が23%(+住民税10%=33%)のゾーンに入ります。法人との税率差が一気に広がるのはここからです。
もちろん、売上の安定性や将来の事業展開によっても判断は変わります。「今期だけ利益が多かった」のか、「毎年このくらい稼げる見通し」なのかで、結論は違います。ただ、「まだ早いかな」と思っている方の多くは、実はとっくにタイミングを過ぎていることが多いのも事実です。
法人になると何が変わるか
節税効果を具体的にイメージするために、法人化で使える手法をいくつか挙げておきます。
まず、役員報酬として自分の給与を経費にできます。個人事業主は自分への報酬を経費にできませんが、法人では役員報酬が損金算入されます。給与所得控除も使えるため、同じ手取りでも税負担が大きく変わります。
次に、退職金の積み立てが可能になります。法人から自分に退職金を支払うことができ、退職所得控除という大きな税優遇を受けられます。これは個人事業主には使えない制度です。
さらに、経費の範囲が広がります。出張旅費規程の整備、社宅制度の活用、生命保険の損金算入……個人では難しかった節税手法が一気に使えるようになります。
Aさんが後悔していたのは、単に税金を多く払っていたことだけではありませんでした。「この8年間、法人なら積み上げられた退職金の原資を、そのまま税金に消していた」——それが一番堪えた、と言っていました。
先延ばしのコストは、静かに積み上がる
法人化は「いつかやろう」と思いながら、なんとなく先送りにしやすいテーマです。今すぐ困っているわけではないし、現状でも事業は動いている。その感覚はよく分かります。
でも税金の差額は、毎年静かに確定しています。
課税所得が700万円を超えているなら、まず一度、税理士に試算を依頼してみてください。「法人化すると年間いくら変わるか」を数字で見ると、先延ばしのコストが一気に可視化されます。Aさんのように8年後に後悔する前に、今期中に動いておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。