先日、東京・江東区で賃貸マンションを3棟所有している社長からこんな相談を受けました。「先代から引き継いだ物件を次の世代にもきれいに残したい。でも最近、税理士からシミュレーションを見せてもらって、思っていた金額と全然違って焦っています」と。
その社長が焦った理由は、明確でした。2024年から、マンションの相続税評価の計算方式が大きく変わったからです。
「1億円のマンションが2,000万円で評価される」時代は終わった
かつて、区分マンションの相続税評価は市場価格よりはるかに低く算出されるのが一般的でした。路線価と建物の固定資産税評価額を足し合わせるだけの計算式では、実勢価格1億円のタワマンが2,000〜3,000万円台で評価されることも珍しくなかった。
この「評価乖離」を活用した節税スキームは、富裕層の間で広く使われていました。しかし国税庁は長年の税務訴訟を経て、2024年1月からマンションの評価方法を大幅に見直しました。
新しい計算方式では、市場価格と相続税評価額の乖離率が一定以上になると補正がかかる仕組みになっています。つまり「評価額が安すぎる」と判断されると、評価が引き上げられる。これによって、タワマンを活用した節税スキームは事実上、封じられた形です。
路線価の上昇が「ダブルパンチ」になっている
問題は改正だけではありません。都市部の路線価は、ここ数年で着実に上昇を続けています。2024年の路線価は全国平均で3年連続のプラス。東京・大阪・名古屋の主要エリアでは、5〜10%単位で上がっている地点も少なくありません。
評価方式の是正に加え、路線価そのものが上がれば、相続税の評価額は二重に押し上げられます。何もしなければ、5年後の相続税負担が今の倍になっても不思議ではないというのが、専門家の間での共通認識です。
「自分の土地は昔から持っているから大丈夫」と思っている方も、一度シミュレーションを見直してみてください。親が取得したころとは、路線価の水準が大きく変わっているケースが多いです。
今からできる「正攻法」の筆頭がこれ
では打つ手がないのかというと、そんなことはありません。今でも有効な手段として専門家が最初に挙げるのが、**「小規模宅地等の特例」**です。
この制度は、相続する土地の使い方に応じて評価額を大幅に下げられる特例で、うまく使えば節税効果は非常に大きくなります。
- 自宅の土地(特定居住用宅地):330㎡まで、評価額を最大80%減額
- 賃貸物件の土地(貸付事業用宅地):200㎡まで、評価額を最大50%減額
たとえば路線価ベースで5,000万円の賃貸アパートの敷地であれば、特例を使うことで評価額を2,500万円まで圧縮できる計算です。この差が相続税に直結するため、適用できるかどうかは大きな分岐点になります。
ただし、適用するには要件があります。「誰が相続するか」「その後どう使うか」「同居の有無」など複数の条件を同時に満たす必要があり、準備なく相続が発生してしまうと適用できないケースも出てきます。
「昔やったから大丈夫」が一番危ない
相続対策で最も危険なのは、「以前に一度シミュレーションをやった」という思い込みです。2024年の改正前に作った試算は、今の制度に対応していない可能性が高い。
まずは現時点での相続税評価額を最新のルールで計算し直すことが先決です。改正の影響がどれくらいあるか、路線価の上昇分はどう反映されているか。数字を把握してから、対策の優先順位を決める流れが基本です。
不動産を複数お持ちの方であれば、どの物件から手をつけるか、誰に何を残すかという設計も絡んでくるため、相続専門の税理士と早めに動くことが重要です。先ほどの江東区の社長も、「あと数年放置していたら手遅れになるところだった」とおっしゃっていました。
相続は、起きてから動くのでは遅い。まずは今の評価額で、一度立ち止まって確認することから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。