先日、フリーランスのコンサルタントの方からこんな相談を受けました。「年収700万円になってきたんですが、なんか思ったより手取りが増えないんですよね。法人化ってどうなんでしょう?」
これ、本当によく聞く話です。年収が上がってきたとき、多くの方がこの疑問を抱えます。実は、年収700万円前後というのは、法人化の検討を始めるべき「分水嶺」とも言えるタイミングなんです。
年収が増えても手取りが増えない理由
個人事業主の場合、売上から経費を引いた事業所得がそのまま課税ベースになります。年収700万円規模になると、所得税・住民税だけでなく、国民健康保険料もじわじわ増えてきます。
国民健康保険料は所得に比例して上がる仕組みで、年収700万円の個人事業主なら年間70〜90万円になることも珍しくありません。所得税・住民税と合わせると、稼いだお金の4割近くが税と保険料で消えていく計算になります。
これが「年収は増えているのに手取りが増えない」と感じる正体です。頑張って売上を伸ばしても、増えた分の多くが税金に持っていかれる構造になっています。
法人化するだけで使える「給与所得控除」
法人化の最大のメリットは、役員報酬を通じて「給与所得控除」が使えるようになることです。
給与所得控除とは、給与をもらっている人に自動的に適用される概算経費のことです。年収700万円の場合、給与所得控除は約190万円。つまり、700万円の役員報酬を設定すると、課税の対象は190万円分少ない510万円程度になります。
個人事業主では一切使えなかったこの控除が、法人化するだけで自動的に適用されます。この時点で、すでにかなりの節税効果が生まれます。
さらに手取りを増やす「役員社宅」と「出張日当」
給与所得控除だけでも大きな節税ですが、さらに踏み込んだ手法が「役員社宅」と「出張日当」の組み合わせです。
役員社宅とは、法人が物件を借りて役員に貸し付ける仕組みです。家賃の一部(通常50〜90%)を法人の経費にできるため、役員個人の実質的な家賃負担を大きく減らせます。仮に月20万円の家賃なら、年間100〜200万円規模の経費計上が可能になります。
出張日当は、社内規程を整備することで日当として受け取ったお金が非課税になる仕組みです。出張の多い方なら、年間数十万円を非課税で受け取れるケースもあります。
給与所得控除・役員社宅・出張日当、この三つを組み合わせると、条件次第で年200万円規模の手取りアップになることも十分にあり得ます。
法人税率は思ったより低い
「法人化すると法人税がかかるのでは?」と心配される方も多いです。確かにそのとおりですが、中小企業の場合、課税所得800万円以下の法人税実効税率は約23%です。
個人事業主として年収700万円なら、所得税の最高税率は33%。住民税10%と合わせると、実質的な税率は40%を超えることもあります。法人税率の23%と比べると、大きな差があります。
法人に残した利益を後で取り出すときには別途課税がかかりますが、役員報酬の金額を適切に設定することで、全体の税負担を効果的に抑えることができます。
デメリットも正直に伝えます
法人化のよい話ばかりしてきましたが、注意点もあります。
まず社会保険料です。法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必須になり、会社と個人で折半して負担します。役員報酬700万円の場合、会社負担分だけで年間70〜80万円になることがあります。
また、法人設立には登記費用(20〜30万円程度)がかかり、税理士報酬も個人事業主より高くなるのが一般的です。決算申告、社会保険手続き、法人住民税の均等割(赤字でも年7万円)など、維持コストも発生します。「節税額 > コスト増」になるかどうかが、法人化の判断軸です。
自分には法人化が有利かどうか
年収700万円という数字はひとつの目安ですが、実際の判断はもっと個別の事情に依存します。家族構成、住んでいる地域、経費の状況、事業の見通し——これらすべてを加味した試算なしに「法人化すべき」とは一概には言えません。
よくお伝えするのは、「1回の試算コストは数万円、でも10年続ければ差は数百万円になる」ということです。年収が700万円を超えてきたと感じたら、一度税理士に試算を依頼してみてください。その数万円は必ず取り返せます。
まだ法人化を検討したことがないという方は、今期の決算前に一度シミュレーションを依頼してみることをおすすめします。年収700万円という節目を超えたなら、動くなら早いほど得です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。