「年収がこのくらいになったら、そろそろ法人化すべきですよね?」
先日、年商が600万円を超えたばかりの個人事業主の方から、こんな相談を受けました。答えは単純ではなく、「年収だけでは判断できない」というのが正直なところです。
法人成りの判断を誤ると、節税を狙ったはずが社会保険料の増加や事務コストで逆に負担が増えることもあります。「こんなはずじゃなかった」とあとからご相談に来られる方は、実は少なくありません。
重要な判断基準は大きく3つあります。優先度の低いものから順番にお伝えします。
3位:設立の「時期」で免税期間が変わる
法人を設立すると、最初の2事業年度は消費税が免税になる制度があります(前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下の場合)。法人成りの代表的なメリットのひとつです。
ところが、設立月によってこのメリットを大きく損なうケースがあります。
たとえば10月に設立した場合、最初の事業年度は10〜3月の半年間になります。翌年4月からの2期目は12か月ありますが、合計の免税期間は実質18か月程度。年度初めの4月に設立していれば、1期目12か月+2期目12か月=24か月の免税期間が確保できます。
同じ「2年免税」でも、設立月次第で半年近く損してしまう。消費税の課税売上高が大きい業種ほど、この差は数十万〜数百万円単位になることがあります。法人を作るなら、なるべく事業年度の初月に合わせるのがセオリーです。
2位:「業種」で向き不向きが決まる
次に大切なのが業種です。法人化すれば誰でも得をするわけではなく、業種によって明確な向き不向きがあります。
法人化でメリットが出やすいのは、不動産業・建設業・製造業です。外注費や仕入れが多く、法人として経費を積み重ねやすい構造になっています。従業員を雇う予定がある業種も、社会保険料の損金算入を考えると法人が有利です。
一方、個人事業のままで十分なケースもあります。コンサルタントや個人完結型のITフリーランスなど、自分一人でサービスが完結する業種がその代表です。経費が少なく利益率が高い場合、法人化しても節税の「ネタ」が少なくなりがちです。
もちろん例外はあります。同じ「一人コンサル」でも、顧問料が高額であれば法人化の恩恵を受けやすい。大切なのは業種の傾向を踏まえたうえで、自分の数字に当てはめて個別に試算することです。
1位:「年収」のボーダーラインは600〜700万円
最も重要な判断基準が、年収(事業所得)です。
一般的な目安として挙げられるのが年収600〜700万円のライン。この水準を超えると、法人化による節税効果が出始めるケースが多くなります。
理由は税率の逆転にあります。中小法人の場合、課税所得800万円以下の部分には軽減税率が適用され、法人住民税・法人事業税を含めた実効税率は約23%程度です。一方、個人の所得税は課税所得が695万円を超えると税率33%(住民税10%含む)に達します。
つまり年収600〜700万円を境に、個人より法人のほうが税率が低くなってくるのです。
ただし、この数字はあくまで目安です。社会保険料の負担、設立・維持コスト(登記費用、税理士報酬、毎年の申告費用など)を加味すると、実際の損益分岐点は状況によって変わります。「とりあえず600万を超えたから法人化」という判断は早計です。
3つの基準が揃ったとき、初めて動く
時期・業種・年収——この3つは単独で判断するものではなく、組み合わせて考えるものです。
「年収600万円を超えていて(年収クリア)」「仕入れや外注が多い業種(業種クリア)」「来期の4月に設立できる(時期クリア)」——3つが揃って、初めて法人化の検討が本格化します。
一つでも揃っていない場合は、急がず個人事業のまま準備を整えてから動くほうが、結果的に節税効果が大きくなることも多いです。
法人成りは「やってしまえば元に戻れない」選択です。今期の決算数値が出たタイミングで、一度税理士にシミュレーションを依頼しておくのがおすすめです。決算期を見据えて、今から動いておくのがベストです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。