先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「去年、社員旅行も兼ねて仕入れ先を視察したんですが、税務調査で旅費を全額否認されてしまって……。いったい何がダメだったんでしょうか」

話を聞いてみると、旅行の目的は確かに業務でした。でも、記録が何も残っていなかったのです。

「業務目的」だけでは経費にならない

社長の旅行費を経費にするとき、多くの方が「業務のためだから当然OK」と思っています。確かに、業務目的であることは大前提です。でも、税務調査官はあなたの「気持ち」を証拠とは認めません。

必要なのは「記録」です。しかも、3つの条件を満たした記録でないと、せっかく正当な業務旅行でも全額否認される可能性があります。年30万円規模の旅行費が一瞬で消える——そんな理不尽を避けるために、まず仕組みを理解しておきましょう。

経費化に必要な3つの条件

① 業務目的を証明できる行程表か議事録

旅行の前後に、何のための出張だったかを示す書類を残してください。

たとえば「大阪の取引先を訪問し、来期の発注について協議」という内容の議事録や、日程・訪問先・商談内容を記した行程表です。事後に作成するのではなく、旅行前にスケジュールとして記録し、戻ってから議事録として補完するのが理想的です。

税務調査でよく問題になるのが「観光と商談が混在している旅行」です。京都の取引先を訪ねた翌日に嵐山を散策……というパターンは、観光目的との区別がつかないため指摘されやすい。行程表に商談の詳細が記されていれば、それだけで説得力が大きく変わります。

② 参加者と関係先の記録

誰と誰が参加したのか、訪問先はどの会社の誰なのか、これも必ず残してください。

「社長と社員2名で、A社の田中部長と面談」というレベルの記録があれば十分です。名刺を保管しておくだけでも有効な証拠になります。参加者が不明確な旅行費は、プライベートの旅行に社名を被せたと疑われる原因になります。

③ プライベートと費用を按分した合理性

3泊4日の出張のうち、商談があったのは1日だけ——という場合、残りの3日分は経費にならない可能性があります。

重要なのは「按分の合理性」です。商談の日数割りで按分する、宿泊費は全体から観光日分だけ除くなど、客観的に説明できる計算方法を使ってください。「だいたい半分くらいが業務かな」という感覚では、調査官は認めてくれません。

この3条件が揃って初めて、年間30万円規模の旅行費も堂々と経費化できます。

接待飲食費も2024年から変わっています

旅行費と合わせて確認しておきたいのが、接待飲食費のルールです。

2024年4月以降、1人あたり1万円以下の飲食費は、交際費から除外されて損金算入できるようになりました(従来は5,000円以下が上限でした)。外食代が上がっている今の物価水準に合わせた改正です。

ただし、これにも条件があります。以下の5項目を記録として残すことが必須です。

  • 飲食の年月日
  • 参加した得意先の氏名・会社名
  • 参加した社内関係者の氏名
  • 飲食した場所の名前・住所
  • 支払った金額と人数

レシートの裏に手書きでメモするだけでも構いません。でも、この記録がないと1人1万円以下でも経費と認められないので注意が必要です。

記録習慣が節税の差をつける

旅行費も接待費も、経費化の可否を分けるのは「業務の実態」ではなく「記録の質」です。

どれだけ正当な業務目的があっても、証明できなければ税務調査で否認される。逆に言えば、きちんと記録を残している会社は、税務調査が入っても堂々と対応できます。

まだ旅費規程を整備していない会社も多いと思いますが、経費化の基準と記録のルールを社内で統一しておくと、経理担当者も迷わずに処理できます。今期中に一度、顧問税理士と一緒に旅費規程を見直しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。