先日、ある社長からこんな連絡が来ました。「税務調査が終わったんですが、追徴が200万円以上になってしまって……」。電話口の声は、明らかに沈んでいました。
話を聞いてみると、原因はシンプルでした。領収書の書き方が足りなかっただけ、なのです。
500万円が消えた、その領収書の中身
田中さん(仮名)は年商3億円の建設会社を経営しています。取引先との接待や会食は業務の一部で、年間の飲食費はそれなりの金額になります。
先月、税務調査官が事務所に入りました。調査官が飲食費の領収書をひとつひとつ確認していくなかで、こんな問いかけがありました。「この領収書、参加者のお名前と、何の目的で会食されたか、記録はありますか?」
田中さんが保管していた領収書には、日付と金額、店の名前だけ。参加人数すらわからない状態で、1人あたりの単価を証明する手立てもありませんでした。
調査の結果、接待飲食費のおよそ5割にあたる約500万円が「事業目的を確認できない」として経費に認められませんでした。本税と過少申告加算税を合わせた追徴額は、約200万円。「まさか領収書の書き方一つで、こんなことになるとは思わなかった」と田中さんは話してくれました。
なぜ記録がないと経費が消えるのか
接待飲食費は、税法上「その支出が事業と関連していること」を証明できなければ経費として認められません。税務調査官はそれを確認するために、領収書を見ます。
金額と日付だけでは「いつ、いくら使ったか」はわかっても、「誰と、何のために」が証明できません。特に飲食費は金額が大きくなりやすく、調査官も重点的に見てきます。1件あたりが大きいほど、「この支出は本当に事業に関係があるのか」という疑念を持たれやすいのです。
税務調査で堂々と主張できる、5つの記録項目
田中さんの事例から学べる防衛策は、実はとてもシンプルです。会食の後、領収書の余白にこの5つを書き添えるだけです。
① 日付 領収書に印字されていますが、手書きで確認する習慣をつけておくと確実です。
② 参加者の氏名・会社名・関係性 「〇〇建設 山田部長・受注担当」のように、相手が誰で、自分との関係が何かをひと言添えます。
③ 参加人数 「計3名」と書いておくだけで、1人あたりの単価が計算できるようになります。接待飲食費には1人あたりの金額要件がありますが、人数がわからないと基準すら判定できません。
④ 金額・店名・所在地 領収書に記載がある場合でも、時間が経つと印字が薄れることがあります。念のためペンで書き写しておくと安心です。
⑤ 商談・会食の概要 「〇〇案件の受注交渉」「新規取引先との関係構築」など、20文字程度でかまいません。事業との関連性が一目でわかれば十分です。
この5項目を習慣にしている社長は、税務調査でも動じません。「なんのための会食だったのか」と聞かれたとき、領収書を見せながら答えられるからです。
「あとでまとめて書けばいい」がいちばん危ない
よくあるのが「月末にまとめて清書しよう」という運用です。ところが1か月後に領収書を見ても、「このとき誰と何を食べたんだっけ?」とわからなくなっていることが多い。
記憶が新鮮なうちに、会計を済ませたその場で書くのがベストです。スマートフォンのメモアプリに記録しておいて、あとで領収書に転記するだけでもかまいません。大切なのは「書く仕組み」を持つことです。
会食の翌朝にまとめる、週に一度レシートを整理する日を決めるなど、自分に合ったルールを持っておくだけで、田中さんのような事態は十分に防げます。
今月中に始めてほしいこと
領収書の記載は、税務調査のためだけにあるわけではありません。「この支出は本当に事業に必要だったか」を自分自身が振り返るための記録でもあります。
飲食費が多い業種ほど、記録の習慣が決算の結果を大きく左右します。まだ記録ルールを決めていないなら、今月中に運用を始めることをおすすめします。できれば顧問税理士と一緒に「うちの会社ではどこまで書けばよいか」を確認しておくと、より確実です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。