先日、工場を経営する60代の社長からこんな相談を受けました。
「息子に会社を継がせたいんだが、相続税の試算を見たら想像以上の金額で……。正直、何をどうすればいいのかわからなくて」
この社長、年商は3億円ほど。20年かけて育てた会社に自負もあるのに、相続のことを考えると夜も眠れないとおっしゃっていました。
その気持ち、よくわかります。でも同時に、「この社長には、個人にはない強力な武器がある」とも思いました。それが自社株の評価の仕組みです。
相続税の基本をおさらい
相続税には基礎控除があります。計算式は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」。
妻と子ども2人が相続人であれば、3,000万円+3人×600万円=4,800万円まで非課税です。この枠を超えた分が課税対象になります。
一般の個人であれば、現金・不動産・上場株などをそのまま時価で計算します。財産が6億円あれば、4,800万円を引いた約5.5億円が課税ベース。ここに税率が乗ってくるわけです。
でも法人オーナーは、ここから話が変わります。
非上場株式は「時価」で評価されない
自社株——つまり非上場株式——には、株式市場がありません。毎日値がついて売買されるわけではないので、上場株のような「時価」が存在しないのです。
そのため国税庁は、独自の評価方式を定めています。代表的なのが「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2つです。
類似業種比準方式は、同業の上場企業の株価を参考に、対象会社の「配当」「利益」「純資産」の3要素を組み合わせて評価する方法です。利益が少なかったり、配当を抑えていたりすると、評価額が低く出ます。
純資産価額方式は会社の純資産をベースにしますが、含み益のある不動産を保有している場合は評価が高くなる傾向もあります。どちらを使うかは、会社の規模・業種・株主構成によって決まります。
「評価差」で税額が数千万円変わる
具体的な話をしましょう。
実態として10億円の価値がある会社の株が、国税庁の算定式を通すと6〜7億円の評価になることがあります。
この差額3〜4億円は、そのまま課税対象から外れます。相続税の最高税率は55%(課税遺産総額が6億円超の部分)。仮に3億円の評価が下がれば、税額は最大1億円以上変わる計算です。「3割変わる」というのは、決して大げさではありません。
評価を下げる主な手法
合法的に評価額を引き下げる方法はいくつかあります。
ひとつは利益のコントロール。類似業種比準方式は直近の利益を重視するため、設備投資や退職給付引当金の計上などで利益を適切に圧縮すると評価が下がります。
もうひとつは役員退職金の活用です。オーナー経営者が退職金を受け取ると、会社の純資産が減少します。これにより株式の評価額を引き下げることができます。
また、**持株会社(ホールディングス)**の設立も有効なケースがあります。評価額の高い事業会社の株を持株会社を通じて保有させることで、評価の分散や引き下げが可能になることがあります。
注意点:「合法だから大丈夫」は通じない
ここが肝心です。
評価を下げる行為は合法であっても、「行き過ぎ」と判断されれば税務調査の対象になります。特に相続直前の急激な純資産圧縮や、実態を伴わない退職金の支給は「相続税逃れ」として否認されるリスクがあります。
税務署は「経緯」を見ます。数年にわたって計画的に実行してきたのか、相続直前に慌てて動いたのか——その違いが調査結果に直結します。相続税対策に「早すぎる」はありません。
まず「自社株の評価額」を知ることから
相続対策を検討している社長に一番お伝えしたいのは、「まず現状の評価額を試算してもらう」ことです。
評価がどのくらいか、どこに引き下げの余地があるか——それを知らないまま動くのは、地図なしで登山するようなものです。数字が見えて初めて、対策の優先順位が決まります。
まだ専門家に相談したことがない社長は、今期中に一度、「自社株の相続税評価を試算してほしい」と税理士に依頼してみてください。その一歩が、将来の相続税の大きな差につながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。