先日、従業員30名ほどの印刷会社を経営する60代の社長が、こんな言葉を漏らしました。

「息子に会社を継がせたいんですが、相続のときに税金で会社をたたまないといけなくなるんじゃないかと……」

冷静に試算してみると、杞憂どころか、かなり深刻なケースでした。土地や預金と違って、会社の株式は「いくら」と一目でわからない。それが、法人オーナーの相続対策における最大の盲点になっています。

黒字経営が、相続の重荷になる皮肉

相続税の基礎控除は、3,000万円+法定相続人の数×600万円です。妻と子ども2人が相続人なら控除額は4,800万円。それを超えた分に税率がかかります。

個人の現金や不動産なら話はシンプルですが、法人オーナーの場合、自分が保有する「会社の株式」も相続財産に含まれます。しかも、長年黒字を積み上げてきた会社ほど、株式評価額が高くなる構造になっている。

真面目に会社を大きくしてきた社長ほど、相続の負担が重くなる。この皮肉な現実を、まず知っておいてください。

法人オーナーだけが持つ「評価圧縮」という武器

ここで、個人と法人オーナーの決定的な違いが出てきます。法人オーナーには、自社株の評価額を合法的に引き下げる手段があるのです。

自社株の評価は、大きく「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の2つを組み合わせて計算されます。この計算に使われる指標が、役員報酬の水準や内部留保の額によって変わる、というのがポイントです。

たとえば、役員報酬を適切に設計して利益を圧縮すると、株式評価の基準となる利益比準値を下げることができます。また、内部留保が膨らみすぎると純資産が増えて株価が上がるため、設備投資や役員退職金を活用して内部留保をコントロールすることも有効な手段です。

こうした対策を組み合わせると、評価額が30%前後変わるケースも珍しくありません。たとえば株式評価額が1億円から7,000万円に圧縮されれば、課税対象が3,000万円減ります。税率40%のゾーンに入っている方なら、それだけで1,200万円の税負担の差が生まれます。

2027年末が期限、「特例措置」で相続税ゼロも現実的

評価圧縮だけでも大きな効果がありますが、さらに強力な制度が「事業承継税制の特例措置」です。

この制度を活用すると、後継者が相続または贈与で取得した自社株にかかる相続税・贈与税を、最大100%猶予できます。実質的に支払いゼロになるケースも多く、「会社を守るために自宅や土地を売却しなければならない」という最悪の事態を回避できます。

ただし、重大な期限があります。贈与・相続への特例適用は2027年12月31日までです。

「いずれ対策しよう」と先延ばしにしていると、選択肢そのものが消えてしまいます。特例を使うには事前の承継計画書提出も必要なため、今から動き始めても時間的な余裕はそれほど多くありません。

「直前の突貫工事」は逆効果

評価圧縮も事業承継税制も、やり方を誤ると租税回避と判断されるリスクがあります。評価を下げる目的だけで役員報酬を急増させたり、相続直前だけ内部留保を急激に動かしたりすると、税務調査で問題になる可能性があります。

あくまで「経営の実態に即した対策を、継続的に行う」ことが原則です。5〜10年かけて株式評価を適切に管理してきたオーナーと、何も手を打たずに相続を迎えたオーナーでは、同じ規模の会社でも相続税の負担が数千万円単位で変わる、というのはよくある話です。


まず「自分の会社の株がいくらで評価されるか」を把握していない場合は、現状の試算から始めてみてください。数字を見て初めて、危機感が実感に変わります。事業承継税制の特例は2027年末が最後のチャンス。動くなら、今です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。