先日、都内でアパートを3棟持つ社長からこんな相談を受けました。「不動産収入が増えてきたんですけど、税金がとにかく重くて。何かいい方法ってないですかね?」

話を聞いてみると、法人の代表を務めながら、個人名義でも年間800万円ほどの不動産収入があるとのこと。「個人と法人は別々に考えていました」とおっしゃっていましたが、そこに大きな見落としがありました。

個人名義の不動産には「税率の壁」がある

不動産収入を個人名義で受け取ると、給与収入や事業収入と合算して総合課税が適用されます。

課税所得が900万円を超えると税率33%、1,800万円超で40%、4,000万円超で最大55%(所得税+住民税)になります。年収の高い社長ほど、不動産収入の「最後の1円」が高い税率で課税される構造になっているんです。

一方、法人の実効税率は規模にもよりますが、おおむね約34%で頭打ちになります。課税所得がどれだけ大きくなっても、個人ほど跳ね上がることはありません。

「年200万円差」の正体

具体的なイメージをつかむために計算してみましょう。

個人名義で年1,000万円の不動産収入があり、他の所得と合算した課税所得が3,000万円を超えているとします。この場合、不動産収入部分には住民税込みで約55%の税率がかかります。

同じ収入を法人で受け取った場合の実効税率が34%なら、差は約21%。1,000万円に対して210万円の差が生まれる計算です。これが「年200万円差」の正体です。

課税所得が高い社長であれば、この差は決して大げさな数字ではありません。むしろ、規模が大きくなるほど差は広がっていきます。

法人化すると「使える手」が増える

法人が不動産を持つメリットは、税率の差だけではありません。

まず、役員報酬として家族に所得を分散できます。配偶者や子どもに役員報酬を支払えば、所得が分散されて各々の税率が下がります。個人ではできない「所得の移転」が、法人経由の正当な報酬として成り立ちます。

さらに、社宅制度も活用できます。法人が社宅を借り上げて役員に貸す場合、国税庁の計算式に基づいた一定の家賃相当額を徴収すれば、残りの家賃は全額法人の経費になります。月30万円の物件でも、役員負担を数万円に抑えられるケースがあります。個人では「家賃を経費に」という発想がほぼ成り立たないことを考えると、法人化による選択肢の広がりは大きいです。

注意点:コストと手間も正直に

とはいえ、法人化が万能かというと、そうではありません。

法人設立には20〜30万円程度のコストがかかります。さらに赤字でも法人住民税(均等割)が年7万円程度かかり続け、税理士への顧問料も個人申告より高くなるのが一般的です。

また、個人から法人への不動産移転は「売買」扱いになるため、不動産取得税や登録免許税が発生します。既存の不動産を移すのか、新たに購入する物件から法人名義にするのかで、戦略はかなり変わります。損益分岐点のざっくりした目安でいえば、年間の不動産収入が500万円を超えてくるあたりから検討の余地が出てくるケースが多いです。ただしこれも、個人の給与収入や他の資産状況によって変わります。

まずは「試算だけ」でもしてみてほしい

法人を経営しているのに、不動産収入だけ個人名義のままにしている方は、一度「法人で受け取ったらどう変わるか」をシミュレーションしてみてください。

税率差だけでなく、役員報酬の分散や社宅活用まで含めて試算すると、思ったより大きな差が出ることがあります。特に、今後新たに不動産を取得しようとしている方は、最初から法人名義で取得するのが最もスムーズです。

「うちはどうなんだろう」と感じたら、まずは顧問税理士に現状の試算を依頼することをおすすめします。動いてみると、答えは意外と早く出ます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。