先日、こんな相談を受けました。「法人成りしたのに、去年より手元にお金が残らないんです」と、苦い表情で話してくれた社長がいました。

年商2,800万円で個人事業を10年以上営んできたAさん。所得税の重さに限界を感じ、「法人にすれば節税できる」とネットで調べて昨年、法人化に踏み切ったそうです。

ところが決算が終わって数字を並べてみると、手元に残るお金が前年よりも減っていた。いったい何が起きたのでしょうか。

「見えていなかった」3つの追加コスト

法人成りの失敗パターンで最も多いのが、「節税額だけを見て、増えるコストを計算しなかった」というケースです。

Aさんの場合、法人化によって発生した追加コストは主に3つありました。

まず、税理士の顧問料。個人の確定申告は年10〜15万円程度で済んでいたのに、法人の顧問契約に切り替えたことで年間36万円の増加になりました。

次に、社会保険の会社負担分。役員報酬を設定した瞬間、社会保険への強制加入が始まります。会社が半分を負担するルールなので、年54万円が新たな固定支出として生まれました。個人事業時代の国民健康保険や国民年金と比べて大幅に増える人は珍しくありません。

そして見落とされがちなのが、法人住民税の均等割。赤字であっても年7万円は必ず発生します。たった7万円に見えますが、毎年確実に出ていくコストです。

この3つを合計すると、年97万円超の追加支出になっていました。

肝心の節税効果は50万円だった

では、節税はどれだけできたのか。法人化による所得分散の効果や、役員報酬に対する給与所得控除の活用などを計算すると、節税効果は約50万円でした。

差し引きで約47万円の「逆ザヤ」。節税のつもりが、実質的に年50万円近くの持ち出しになっていたわけです。

「法人成り=節税」という式が成り立つためには、節税効果がコストを上回る規模と設計が不可欠です。Aさんのケースでは、その設計段階の検討が丸ごと抜けていました。

法人成りが有利になる目安

では、どのくらいの規模なら法人化が有利に働くのでしょうか。よく言われる目安は「課税所得が年800万円超」という水準ですが、これはあくまで出発点に過ぎません。

実際には役員報酬の設定額、家族への給与の支給、社会保険の負担額など、個別の条件によって答えは大きく変わります。役員報酬を高めに設定すれば所得分散の効果が上がる一方、社会保険の会社負担も連動して増える。このバランスの見極めが難しいのです。

法人成りの前に確認すべき3点

Aさんのような失敗を避けるために、法人化を検討する段階で必ず確認してほしいことがあります。

  • 現状の税・社会保険の負担を正確に把握する:個人の所得税・住民税・社保料の合計をまず計算する
  • 法人化後のコストをすべて洗い出す:顧問料・均等割・社会保険の会社負担を含めたトータルコスト
  • 複数パターンの役員報酬でシミュレーションする:報酬額によって節税効果もコストも変わる

この3点を検証せずに動いた結果が、Aさんのケースでした。

設計が正しければ、結果は変わった

Aさんは翌年、役員報酬の見直しと経費計上の最適化に取り組み、ようやくプラスに転じたそうです。「最初からちゃんとシミュレーションしていれば」と話してくれました。最初の設計さえ正しければ、1年分の損失は避けられたはずです。

法人成りを「なんとなく有利そう」「周りがやっているから」という理由で判断するには、リスクが大きすぎます。今期中に一度、専門の税理士と数字を並べてシミュレーションすることを強くおすすめします。やるやらないの判断材料が、大きく変わるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。