先日、建設会社を経営するA社長から「税務調査でやられました」という一報が入りました。

被害額は約15万円。毎年コツコツと経費に計上してきた書籍代とセミナー代の、半分以上が一気に否認されたのです。

A社長は決して悪意を持っていたわけではありません。「勉強に使ったんだから経費になるよね」という、多くの社長が持つ素朴な感覚のままやってきた結果でした。

否認された理由は「業務との関連性」

税務調査官が問題にしたのは、支出の金額ではなく「何のために買ったか」でした。

経費として認められるのは、あくまで「事業のために支出したもの」です。どれだけ本人が「自分の成長のため」と思っていても、それが事業と直結しているかを説明できなければ、税務署には通りません。

A社長の場合、否認された主なものは、個人的な興味で購入した投資関連の書籍、社員が誰も参加していない個人名義のセミナー費用、建設業とは縁の薄い自己啓発系の講座代——そういったものでした。どれも購入した本人には立派な理由があったはずです。でも税務署の目線は一点、「会社の利益を生むために必要だったのか?」です。

書籍代が通る・通らないの境界線

本の内容よりも先に確認してほしいのが、購入の方法です。

会社名義で購入し、会社の書棚に置いてある本は、比較的認められやすい。一方で、個人のAmazonアカウントで購入してそのまま自宅に置いてある本は、「会社の資産か、個人の資産か」という疑義が生じます。

内容面では、建設会社なら建設業法の解説書や労務管理の参考書はOKです。しかし「FX入門書」「株式投資の教科書」は、いくら「資金運用のため」と説明しても、本業との関連性を証明するのは難しい。

「この本を買ったことを、税務調査官の前で説明できるか?」——これを自問するだけで、かなりの判断ができます。

セミナー代はさらに否認されやすい

セミナーは書籍よりも厳しく見られます。理由はシンプルで、「誰が参加したか」が記録に残るからです。

社長個人の名前で申し込み、個人のカードで決済し、参加証明書も個人名義——これでは会社の経費として通りにくくなります。また、「リーダーシップ研修」「マインドセット講座」のような自己啓発系は、業種との関連性を説明しにくく、否認されるケースも少なくありません。

金額が大きくなりやすいのもセミナーです。1回10万円以上の講座を何本も計上していると、調査官の目に留まりやすくなります。

正しく経費にするための3つの習慣

対策はそれほど難しくありません。日頃からこの3つを意識するだけで、税務調査への耐性がぐっと上がります。

① 領収書に購入理由をメモする

「〇〇の工事入札対応のため」「新人研修のテキストとして使用予定」——購入した目的を領収書の裏か経費精算書に一言書いておきましょう。数年後の調査で、これが証拠になります。

② 会社名義・会社のカードで購入する

個人で立て替えた場合は精算票を必ず作る。できれば最初から会社のカードで購入するのが理想です。Amazonビジネスアカウントを法人で開設しておくと、購入履歴の管理も楽になります。

③ 「会社として使った実態」を作る

購入した本は会社の棚に並べる。セミナーは社員と一緒に参加するか、参加後に社内で報告会を開く。こうした利用実態があると、経費認定の根拠になります。

年間30万円の積み上げが、一度の調査でゼロになる

書籍・セミナー代はそれぞれの金額が少なく見えるだけに、何となく経費に混ぜてしまいがちです。でも年間で積み上げると30万円、5年で150万円になる。否認されると追徴税額と加算税が重なり、大きなダメージになります。

「これくらい大丈夫だろう」という感覚が一番危ない。細かいと思っても、領収書へのメモ書きは今日からでも始められます。まず手元の領収書入れを開いて、今年の書籍・セミナー代を一度確認してみてください。気になる計上があれば、決算前に税理士に相談しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。