先日、フリーランスから個人事業主として10年以上やってきた、あるコンサルタントの方からこんな相談を受けました。
「売上は順調に伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない。何かおかしい気がする」
話を聞いてみると、年間の課税所得がすでに1,000万円を超えているにもかかわらず、ずっと個人事業主のままでいたんです。正直に言います。その選択だけで、年間100万円以上を余分に払い続けていた可能性があります。
今日は、法人を持つことで一人社長が手にできる5つの節税メリットをお伝えします。知っているのと知らないのとでは、数年後の資産形成に大きな差が生まれますよ。
役員報酬で「累進課税の壁」を乗り越える
個人事業主の最大の悩みは、所得が増えれば増えるほど税率が跳ね上がる「累進課税」です。所得税と住民税を合わせると、課税所得が4,000万円を超えた瞬間に最大55%が持っていかれます。稼いだお金の半分以上が税金になる、という状況です。
法人を設立すると、会社から自分に「役員報酬」という形で給与を払えるようになります。これがミソで、受け取る報酬を適切な水準に設定することで、個人の所得税率を意図的に低い税率に抑えられるんです。
法人に残った利益には法人税がかかりますが、中小法人の実効税率はおおよそ20〜25%程度。個人の最高税率55%と比べると、その差は歴然です。所得が高くなればなるほど、法人を持つ意味が出てきます。
家族を役員にして、さらに所得を分散する
法人化のもう一つの強みが、家族への報酬支払いです。配偶者や家族を会社の役員として迎え、適切な報酬を支払うことで、一人に集中していた所得を複数人に分散できます。
個人事業主でも「青色事業専従者給与」という制度がありますが、法人の役員報酬と比べると使い勝手に差があります。家族全体の税負担を最適化するという視点で考えると、法人のほうが自由度が高いんです。
もちろん、報酬金額は実態に見合ったものである必要があります。名ばかりの役員に高額報酬を払うのは税務署に否認されるリスクがあるので、実際の業務分担を整理したうえで設定しましょう。
「退職金」という個人事業主には使えない切り札
正直、これが法人化の最大の旨みかもしれません。
法人であれば、将来社長が退職するタイミングで「役員退職金」を支払うことができます。この退職金は法人の損金(経費)になる一方、受け取る社長個人の税負担も非常に軽い。退職所得には「退職所得控除」という大きな控除があり、長年働いた分だけ控除額が増えるからです。
個人事業主では、自分自身に退職金を払うという概念自体が存在しません。これは法人だけに許された、完全に合法的な節税の「必殺技」です。経営者として長く働けば働くほど、この恩恵は大きくなります。
法人保険で「備え」と「節税」を同時に実現する
個人事業主でも小規模企業共済は使えますが、月額掛金の上限は7万円(年間84万円)が上限です。それ以上の節税余力がある方には少し物足りない。
法人を持てば、法人契約の生命保険や養老保険を活用した保険スキームが使えるようになります。保険料の一部または全額を損金算入しながら、将来の退職金原資や緊急時の備えを積み立てられる商品があります。
ただし、2019年の税制改正以降、法人保険の節税効果は以前より縮小しています。「節税になるから入っとけ」という単純な話ではなく、保障内容とのバランスを慎重に考える必要があります。保険代理店だけでなく、税理士とも相談しながら選ぶことをおすすめします。
自宅を「社宅」にして生活費まで経費化する
「社宅制度」という言葉、聞いたことはありますか?
法人が物件を借り上げて社長に貸す形を取ることで、家賃の一部を会社の経費にできる仕組みです。個人で家賃20万円のマンションに住んでいる場合、法人が借り上げて社長に転貸するだけで、家賃の大部分を法人の損金にできる可能性があります。
個人で払えばただの「生活費」として終わっていたものが、法人を通すことで「経費」に変わる。これが法人化の醍醐味のひとつです。
計算方法や自己負担額の割合は税法で定められていますので、「全額経費にできる」というわけではありませんが、それでも節税効果は十分にあります。
法人化は「売上がいくらを超えたら」考えるべきか
一般的には、課税所得が年間500〜700万円を超えてきたあたりから、法人化の検討が現実的になってきます。それ以下だと、法人の維持コスト(税理士費用・登記費用・法人住民税の均等割など)が節税メリットを上回ってしまうケースもあるからです。
ただし、将来の退職金設計や相続対策まで見据えると、早めに法人化しておいたほうが得なケースもあります。「今すぐ節税になるか」だけでなく、10年・20年のスパンで判断することが重要です。
まだ個人事業主として活動しているなら、今期の決算が終わる前に一度、自分の課税所得と法人化した場合のシミュレーションを税理士に依頼してみることをおすすめします。比べてみて初めて「こんなに差があったのか」と気づく方が、本当に多いんです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。