先日、フリーランスのエンジニアをしている知人から、こんな相談を受けました。「年収が1,000万円を超えてきたんだけど、なんか税金がえげつないことになってきて…。法人にした方がいいって聞くけど、実際どうなの?」
これ、じつはすごく多い相談です。売上が伸びてきた個人事業主の方ほど、「なんとなく法人の方がいいらしい」とは知っていても、具体的にいつ・どう動けばいいかわからないまま、毎年数十〜百万円単位で余計な税金を払い続けているケースが少なくありません。
所得税と法人税、その「税率差」が全てを決める
個人事業主に課される所得税は、累進課税といって、稼げば稼ぐほど税率が上がる仕組みです。年収が4,000万円を超えると最高税率は45%。住民税の10%を合わせると、なんと55%が税金で消えていく計算になります。
一方、法人税の実効税率はおおむね23〜25%程度。中小企業であれば所得800万円以下の部分には軽減税率も適用されます。
この差を「大した話じゃない」と思う方もいますが、年収1,000万円の個人事業主が法人化するだけで、数十万〜100万円以上の節税につながることも珍しくありません。「法人成り」を検討すべき目安が、だいたい年収800万円と言われるのは、この税率逆転が起きるラインがそのあたりだからです。
法人にすると「自分への給料」が経費になる
法人成りで見落とされがちな、でも実はとても大きなメリットが「役員報酬への給与所得控除」です。
個人事業主として1,000万円稼ぐと、その全額が事業所得として課税対象になります。でも法人を作って、自分に役員報酬として800万円を支払うと、給与所得控除(195万円が上限)が自動的に引かれるんです。つまり、同じ800万円でも、課税される金額が600万円台まで下がります。
さらに、配偶者や家族を役員にして報酬を分散する方法も有効です。たとえば自分が600万円、配偶者に200万円という形にすると、それぞれの所得に対して低い税率が適用されるため、合計の税負担がぐっと下がります。所得の「山」を分散することで、累進課税の壁を越えずに済む、というのがこのテクニックの本質です。
「法人成りさえすれば得」は間違い。落とし穴も知っておく
ここまで聞くと「じゃあ今すぐ法人にしよう!」と思いたくなるところですが、ちょっと待ってください。
法人化には、当然ながらコストと手間がかかります。まず設立費用として、株式会社であれば登録免許税や定款認証費用など合計で20〜25万円程度が必要です。さらに毎年の税理士顧問料、法人住民税の均等割(赤字でも最低7万円程度)なども発生します。
見落としやすいのが社会保険料の負担増です。個人事業主は国民健康保険と国民年金ですが、法人にすると社会保険への加入が義務となります。会社負担分も発生するため、給与水準によっては社会保険料だけで年間数十万円単位の負担増になることもあります。
節税できる金額よりもコストが上回るケースもあり得るため、「年収800万円を超えたから即法人化」ではなく、自分の事業規模・家族構成・経費の状況をトータルで試算することが大切です。
タイミングと設計が、節税の「差」を生む
法人成りを検討するうえで、タイミングも重要な変数です。たとえば、年度の途中で法人化すると、個人事業主としての所得と法人からの役員報酬が同じ年に混在し、かえって税負担が増えることもあります。
一般的には、個人事業の確定申告が終わった直後(2〜3月以降)に法人を設立し、新しい期から法人として動き出すのがスムーズです。また、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めなければ経費として認められないルールがあるため、設立後すぐに報酬額を決定する必要があります。
このあたりの「設計」を誤ると、せっかく法人にしたのに節税効果がほとんど出なかった、というケースも起きます。
年収800万円を超えてきたら、一度試算してみてください
個人事業主として年収800万円の壁が見えてきたなら、それは法人化を「真剣に検討し始めるサイン」です。今すぐ動かなくてもいい。でも、来期・再来期を見据えて、一度しっかり試算しておくことで、数年後に「あの時動いておいてよかった」と思えるはずです。
税理士に相談するときは、「法人にした場合としない場合の税負担を比較してほしい」と具体的にお願いするのがポイントです。ざっくりした質問よりも、数字ベースで話した方が、より精度の高いアドバイスが返ってきます。
年収が増えてきたことは素直に喜んでいい。でも、その果実をちゃんと手元に残すための仕組みづくりも、経営者の大事な仕事のひとつです。まだ法人化を検討したことがないなら、今期の決算が終わったタイミングで、一度税理士と腰を据えて話してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。