先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「日当って、高く設定しておくほど節税になるんですよね?うちはもっと上げようと思っているんですが」と。
気持ちはよくわかります。日当は所得税がかからないまま会社から受け取れるお金なので、うまく活用すれば経営者にとって合法的な節税策になります。ただし、「高ければ高いほどいい」という発想のまま進んでしまうと、税務調査で痛い目を見ることがあるんです。
日当に「上限」はないけれど、「相当額」という壁がある
法律上、日当の金額に明確な上限は定められていません。会社が自由に決められる、という意味では確かにそうです。
ただし、税務上は「社会通念上相当な金額」を超えた部分は給与とみなされ、所得税の課税対象になります。この「社会通念上相当」というのが曲者で、国税庁の通達では「大企業や同業他社の規定と比較して妥当かどうか」が一つの判断基準とされています。つまり、世間の相場と著しくかけ離れた金額は認められない、ということです。
実務的に「無難」とされる金額の目安
現場の税理士の感覚と実務慣行を踏まえると、税務的に通りやすい日当の目安はおおよそ次のような水準です。
役員であれば日額5,000円〜15,000円、一般社員であれば2,000円〜5,000円が一つの目安になります。もちろん業種や会社規模によって幅はありますが、この範囲に収まっていればよほど指摘されることはありません。
ただし、これはあくまで「一日あたり」の金額です。出張の頻度や状況を無視して毎月多額の日当を受け取る形になると、たとえ一日あたりの金額が小さくても問題になることがあります。
「距離」と「宿泊の有無」で金額を変えるのが合理的
日当の設定で押さえておきたいもう一つのポイントが、出張の内容に応じた金額の差別化です。
近場への日帰り出張と、飛行機で移動する遠方への宿泊出張を同じ金額にするのは不自然ですよね。日当には「移動の負担や諸雑費を補填する」という性質があるので、距離や滞在日数に応じて変わるのが自然な設定です。
具体的には、「近距離・日帰りは3,000円、遠方・宿泊ありは8,000円」といったように、距離や泊数に応じた段階を旅費規程に明記しておくのが実務的にも合理的です。この「合理性の説明ができるか」という点が、税務調査での大きな分かれ目になります。
「月20万円の日当」が全額否認された事例
ここで、実際に税務調査で否認された事例を一つ紹介します。
ある中小企業の社長が、日当を1万円に設定し、月に20日出張を行っていました。単純計算で月20万円、年間では240万円の日当を非課税で受け取っていたことになります。
税務調査が入ったとき、担当の調査官はまず「同業他社と比べてこの金額は妥当か」を確認しました。根拠となる資料もなく、他社比較もできない状態では反論のしようがありません。結果として日当の全額が給与と認定され、所得税と社会保険料が追徴されることになりました。
節税のつもりが、逆に税負担を増やしてしまったわけです。
税務署に「説明できる」準備をしておく
では、何を準備しておけばいいか。答えはシンプルで、「根拠を文書化しておくこと」です。
同業他社や大手企業の旅費規程を調べ、自社の設定がそれと比較して妥当であることを示せる資料を作っておきましょう。業界団体が旅費規程のひな形を公開していることもあるので、参考にするのもおすすめです。
もう一つ重要なのが、旅費規程そのものをきちんと整備しておくことです。「口頭で決めている」「昔から慣例でやっている」では税務調査の場で説得力がありません。役員・社員の区分、出張距離の区分、宿泊の有無ごとの金額を明記した旅費規程を書面で作成し、社内規程として保管しておいてください。
節税ツールとして機能させるための条件
日当は、正しく設計すれば会社にとっても社長にとっても有効な節税ツールです。会社側は損金として計上でき、受け取る側は所得税がかからない。この二重のメリットを享受するためには、「合理的な金額」と「規程の整備」という二つの条件を満たすことが前提になります。
逆にいえば、この二つが揃っていれば、税務調査で日当を否認されるリスクは大幅に下がります。
まだ旅費規程を整備していない、あるいは「なんとなく」の金額で日当を運用しているなら、今期中に見直しておくことを強くおすすめします。決算が近づいてから慌てて対応するより、日常的に整った形で運用している方が、何かあったときの説得力がまるで違います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。