先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「5年前の交際費が、税務調査でごっそり否認されました」

金額にして300万円。取引先との会食や贈答品として計上していたものですが、いざ調査官に領収書と使途の説明を求められたとき、手元に残っていたのはレシートの束だけでした。誰と、何の目的で、という記録がどこにもなかったのです。

「証憑がない」だけで経費は否認される

交際費は税務調査で真っ先に狙われる科目のひとつです。金額が大きく、かつ「本当に事業に必要だったのか」が第三者から見えにくいからです。

領収書自体は残っていても、それだけでは足りません。調査官が知りたいのは、いつ・誰と・何の目的で使ったのかという事実関係です。この社長のケースでは、5年も前の会食となると本人の記憶もあいまいで、相手先に確認を取ることもできず、結局「事業との関連性が証明できない」として全額否認されてしまいました。

追徴税額はどこまで膨らむのか

ここからが本題です。300万円の経費が否認されると、その分だけ課税所得が増えます。実効税率33%で計算すると、追徴される本税だけで約100万円。

さらにここに加算税が乗ってきます。単純な計算ミスや見解の相違であれば過少申告加算税で、本税の10%程度。この社長の場合はプラス10万円です。

問題は、意図的な経費計上や隠蔽と判断された場合です。この場合は重加算税となり、本税の35%が上乗せされます。今回のケースに当てはめると、本税100万円に重加算税35万円が加わり、合計で135万円もの負担になってしまう計算です。

5年前のたった1件の交際費が、これだけの痛手になるのです。

なぜ「証憑なし」が一番怖いのか

経理の現場でよくあるのが、「領収書さえ保管しておけば大丈夫」という思い込みです。しかし税務調査で本当に問われるのは、支出の裏にある事実関係です。

交際費であれば、相手先の会社名・氏名・関係性・会食の目的をメモに残しておくだけで、証明力はまったく変わってきます。逆にこれが抜けていると、何年も前の記憶を頼りに説明するしかなくなり、今回のように立証できずに終わることが少なくありません。

特に注意したいのは、証憑の不備が「悪質性」と誤解されるリスクです。単なる記録漏れのつもりでも、調査官の目には意図的な隠蔽に映ることがあります。過少申告加算税で済むはずが重加算税に発展するかどうかの分かれ目は、まさにこの証憑の整備状況にかかっています。

今からできる対策

交際費や会議費を計上する際は、領収書の裏に一言でも「誰と・何のため」を書き添える習慣をつけておくと、数年後の自分を助けてくれます。

会食が多い業種であれば、簡易な交際費台帳をエクセルなどで作っておき、月次で経理担当者と確認する運用にするだけでも、証憑の質は大きく変わります。

税務調査は忘れた頃にやってきます。5年前の記憶を頼りに説明することがどれほど難しいか、この社長の135万円という数字が物語っています。まだ交際費の記録ルールを整えていないなら、今期の分から始めておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。