先日、ある社長からこんな相談を受けました。海外の取引先への支払いを、あえて分割して送金しているというのです。理由を聞くと「まとまった金額を送ると税務署に目をつけられそうで」とのこと。
この発想、実はもう時代遅れです。むしろ逆効果になりかねません。
100万円を超えた瞬間、銀行が税務署に報告している
国内の銀行から海外へ100万円を超える送金をすると、その銀行は「国外送金等調書」という書類を税務署に提出する義務を負います。これは受け取る側の口座がどこの国であろうと関係ありません。
つまり、あなたが確定申告や法人税申告でその送金について何も触れなくても、税務署の手元にはすでに「いつ・誰が・いくら・どこへ送ったか」という情報が届いているということです。
先ほどの社長のように分割送金で100万円のラインを避けようとするケースもよく見かけますが、これは調書提出義務を回避しているだけで、送金自体の記録は銀行に残り続けます。むしろ不自然な分割は税務署からすると「わざわざ避けている」というサインに映りかねません。
海外の口座残高まで各国から自動的に共有されている
さらに踏み込むと、海外に開設した口座の残高も無関係ではいられません。CRS(共通報告基準)という国際的な仕組みにより、日本を含む100以上の国と地域が、非居住者が保有する金融口座の情報を毎年自動的に交換しています。
シンガポールや香港、スイスといった、かつて「情報が出にくい」と言われた国も現在はこの枠組みに参加しています。日本の居住者がその国の銀行に口座を持っていれば、残高や利子・配当の情報が日本の国税庁に自動的に届く仕組みです。
海外に資産を置いておけば当局の目から逃れられる、という前提そのものが、もう成立しなくなっているのが実情です。
「隠す」より「説明できる」ことが最大の防御になる
ここで大事なのは、海外送金や海外資産の保有そのものが問題視されるわけではないという点です。事業上必要な送金、正当な投資、家族への贈与など、目的が明確で申告もきちんとしていれば何も恐れることはありません。
問題になるのは、送金の目的や資金の性質を説明できない状態で税務調査を迎えてしまうケースです。国外送金等調書やCRSの情報と、実際の申告内容に食い違いがあると、税務署側から「なぜこの送金が申告に反映されていないのか」という指摘を受けることになります。
実務上おすすめしているのは、次のような備えです。
- 送金の目的(仕入代金、投資、贈与など)を示す契約書や請求書を保管しておく
- 海外口座の入出金明細を年に一度は確認し、日本での申告と整合性を取る
- 高額な送金や資産移転の前に、税理士に事前相談してスキームの妥当性を確認する
情報がすでに税務署に渡っていることを前提に、堂々と根拠資料をそろえて申告する。これが結果的に最も税務調査のリスクを下げるやり方です。
海外との取引が増えている経営者ほど、この仕組みを正しく理解しておく価値があります。まだ海外送金の記録や契約書を整理できていないなら、次の送金をきっかけに、手元の資料を一度棚卸ししてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。