先日、顧問先の社長のところに保険営業の方が訪ねてきて、こんな提案をしていました。「低解約返戻金型の保険を法人で払い込んで、解約返戻金が低いうちに社長個人へ名義変更すれば、かなりお得ですよ」と。
聞けば数年前まではよく使われていた手法だそうです。ですが結論から言うと、この提案はもう通用しません。2021年の通達改正で、名義変更のたびに得られていた「差額の旨味」がほとんど消えてしまったからです。
以前はなぜ「お得」だったのか
この手法の仕組み自体はシンプルです。低解約返戻金型の保険は、契約から一定期間、解約返戻金がわざと低く抑えられるよう設計されています。法人がこの期間中に契約者を社長個人に変更すると、名義変更時の評価額は「その時点の解約返戻金相当額」とされていました。
解約返戻金が低い時期を狙って名義変更すれば、社長は低い評価額の対価を法人に支払うだけで、将来満期や解約で戻ってくる大きな金額を個人の手に移せます。法人が損金で保険料を積み立て、その果実を低コストで個人に付け替える。これが節税スキームとして広まった理由でした。
改正で「資産計上額」がベースになった
令和3年7月の通達改正以降、契約している保険の名義変更をする際の評価方法が変わりました。解約返戻金の低さを基準にするのではなく、法人がそれまで資産計上してきた金額をベースに評価する扱いに見直されたのです。
資産計上額というのは、法人が保険料のうち損金にせず資産として積み上げてきた部分の金額です。低解約返戻金型の保険であっても、資産計上額は解約返戻金よりずっと高く計上されているケースがほとんどのため、名義変更時の評価額も一気に跳ね上がります。
結果として、社長個人が法人に支払うべき対価が大きくなり、以前のような「格安で保険を個人に移す」という旨味はほぼなくなりました。むしろ下手に名義変更をすると、評価額と実際の払込額の差から思わぬ課税リスクが生じることもあります。
それでも古い提案をしてくる営業がいる理由
改正から数年経った今でも、この手法を紹介してくる保険営業の方は少なくありません。理由の一つは、単純に情報のアップデートが追いついていないことです。
もう一つは、保険商品そのものの魅力と、節税スキームとしての魅力を切り分けずに説明している場合があることです。保険自体が悪いわけではなく、あくまで「名義変更で個人に安く移せる」という部分がふさがれただけなのですが、そこが混同されたまま提案されてしまうことがあります。
顧問先の社長にも「以前のセミナーで聞いた話と同じだったので、てっきりまだ使えるものだと思っていた」と言われたことがあります。数年前の情報のまま止まっている提案には、注意が必要です。
名義変更を検討するなら今すべきこと
この改正を踏まえると、法人契約の保険を個人に移すこと自体を頭から否定する必要はありませんが、判断の前提を変えておく必要があります。
- 名義変更時の評価額は解約返戻金ではなく資産計上額ベースになる前提でシミュレーションする
- 契約時期によって改正の適用有無が変わるため、既契約の保険は個別に確認する
- 名義変更による節税効果ではなく、退職金の一部として保険契約そのものを移す設計を検討する
特に3点目は重要です。名義変更の「差額の旨味」が消えた今、保険を個人に移す意味があるとすれば、退職金の現物支給に近い形で設計し直すケースです。この場合は評価額そのものよりも、退職所得としての扱いや法人側の損金算入のタイミングが焦点になります。
もし顧問の保険営業から名義変更プランを提案されたら、まずは通達改正後の評価方法で試算し直してもらうことをおすすめします。数年前の資料をそのまま使った提案には、一度立ち止まって確認する価値があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。