「うちは毎年ちゃんと青色申告してますよ」——そう言う社長ほど、実は気づかずに10万円を毎年捨てていることがあります。

先日、都内で飲食店を経営する50代の社長から、こんな相談を受けました。「知り合いの税理士から『もったいない申告の仕方してますよ』と言われたんだけど、何がもったいないのかさっぱりわからなくて」と。

話を聞いてみると、原因はすぐに判明しました。毎年、紙の申告書を税務署の窓口に持参していたのです。それだけで、65万円の控除が55万円に下がっていました。

65万円控除には「e-Tax」か「電子帳簿保存」が必須

青色申告特別控除は、最大65万円を所得から差し引ける制度です。個人事業主にとって、これほど大きな節税メリットはそうそうありません。毎年自動的に受け取れる権利のようなものです。

ただし、65万円の満額を受け取るには、次のどちらかを満たす必要があります。

  • e-Tax(電子申告)で申告する
  • 電子帳簿保存法に基づいた電子帳簿を保存している

このどちらも満たさない場合——たとえば、紙の申告書を税務署に持参または郵送している場合——控除額は55万円に下がってしまいます。

差額はたった10万円に見えますが、所得税率が30%の方なら税額で年間3万円の違いです。10年続ければ30万円。しかも「何もしていないから損した」のではなく、「毎年申告している」のに損しているという点が、この話のやっかいなところです。

「毎年同じやり方」が一番危ない

開業したばかりのころ、税務署の窓口に出向いて申告書を提出した。そのやり方をそのまま何年も続けている方は、実は意外に多いものです。

「ちゃんと申告しているから問題ない」という安心感が、静かに毎年10万円を削り続けているとしたら、少し怖くありませんか。

e-Taxへの移行は、最初のセットアップさえ済ませてしまえば、翌年以降は驚くほど楽になります。マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、税務署に行かずに自宅から申告が完結します。還付がある場合は処理も速くなるため、キャッシュフロー的にもメリットがあります。「なんとなく難しそう」というイメージで後回しにするには、もったいなすぎる話です。

2024年から「印刷して保存」は原則NG

さらに、多くの方が見落としている落とし穴があります。

2024年1月から、電子取引データの電子保存が完全義務化されました。メールで届いた請求書のPDF、ネット通販の領収書、クレジットカードのWeb明細——こうしたデータを印刷して紙で保存することは、原則として認められなくなっています

「昔からそうしてきたし、特に問題なかった」という感覚は、もう通用しません。法律そのものが変わっているからです。税務調査でデータの保存方法を確認されたとき、対応できていないと指摘を受ける可能性があります。

対策はシンプルです。freeeやマネーフォワードなど、電子帳簿保存法に対応したクラウド会計サービスを使えば、自動的に要件を満たした形でデータが保管されます。すでに何らかのソフトを使っている方も、設定が正しく有効になっているか、念のため確認しておいてください。

今期中に確認しておきたい3つのこと

話をまとめると、今すぐ確認すべきポイントは次の3つです。

  1. 申告方法がe-Taxになっているか — 紙申告が続いているなら今すぐ切り替えを検討する
  2. 電子データを電子のまま保存しているか — メールで届いた請求書を印刷して捨てていないか確認する
  3. 使っている会計ソフトが電子帳簿保存法に対応しているか — 主要なクラウド会計サービスは概ね対応済みだが、設定の確認を

どれも「知っているかどうか」の差です。知ってさえいれば、対応は決して難しくありません。専門的なスキルが必要なわけでも、多額のコストがかかるわけでもない。やり方を変えるだけで、毎年10万円が手元に残るようになります。

まだe-Taxへ移行していない、あるいは帳簿管理のやり方が数年前のままという方は、今期の申告に向けて一度見直しておくことをおすすめします。毎年10万円を黙って手放す習慣は、気づいた今日から変えられます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。