先日、個人事業歴10年の社長からこんな相談を受けました。「売上は右肩上がりなのに、毎年これだけ税金が出ていく。どこかで変えられませんか?」

話を聞いてみると、法人化をずっと「手続きが面倒そう」と後回しにしていたことがわかりました。でも実はそこに、毎年数百万円の差が生まれていたんです。

個人事業主のまま続けると、経費にできないものが意外と多い。法人にするだけで、それが一気に変わります。組み合わせれば年間300万円の経費増加も、十分に現実的な話です。

法人化で使える「3つの経費化の柱」

役員社宅:家賃の8〜9割を会社が負担できる

個人事業主が自宅家賃を経費にしようとすると、「事業利用割合」による按分が必要です。税務調査でも突っ込まれやすく、半分以上を経費にするのは現実的に難しい。

法人なら「役員社宅」という仕組みがあります。会社が物件を借り、役員に転貸する形にすることで、家賃の80〜90%を法人経費にできます。

月20万円の家賃なら、年間で192〜216万円が経費になる計算です。これだけで、かなりのインパクトがあります。

家族への役員報酬:所得を分散して全体の税負担を下げる

個人事業主が家族に給与を払うには「青色事業専従者」の届出が必要で、金額にも実務上の制約があります。

法人であれば、配偶者や子どもを役員にして報酬を支払えます。代表が年収2,000万円を一人で受け取るよりも、配偶者に600万円、代表が1,400万円という形に分けた方が、家族全体の所得税・住民税はぐっと下がります。

所得の集中を避けるだけで、累進課税の恩恵を最大限に引き出せるわけです。

日当規程:出張のたびに非課税で手元にお金が残る

個人的に一番「知られていないな」と感じるのが、これです。

会社として「旅費日当規程」を作成すると、出張ごとに役員・社員に日当を支払えます。この日当は会社の経費になりつつ、受け取る側には所得税がかかりません。

日当の相場は役員クラスで日帰り出張3,000〜5,000円、宿泊ありなら5,000〜10,000円程度。月10回出張するなら、年間で36〜120万円が非課税で受け取れます。規程を作るだけで使える仕組みなのに、整備していない会社が驚くほど多いんです。

「経費300万増」と「節税300万」は別の話

ここで一つ、大事なことを正直に伝えます。

経費が300万円増えたからといって、300万円そのまま手元に残るわけではありません。法人の実効税率はおよそ30%ですから、経費300万円の増加で節税できる金額は約90万円です。

それでも毎年90万円は、10年で900万円。経営判断の余白が大きく変わります。

ただし法人維持にはコストもあります。社会保険料の増加、法人税の申告費用、役員登記など。これらを差し引いた「純粋な手取り増」で考えることが、法人化判断の正しい見方です。

今すぐ試算に使える3つの数字

税理士に相談するとき、この3点を伝えるだけでシミュレーションがスムーズになります。

  • 現在の自宅家賃(役員社宅の試算に直結)
  • 家族で業務に関わっている人数と現状の収入
  • 月間の出張回数(日当規程の効果算出に使う)

個人事業のまま年間100万円以上の税金を払い続けているなら、法人化の試算を一度やってみる価値は十分にあります。形態を変えるだけで手元に残るお金が変わる、というのは決して誇張ではありません。

日当規程だけなら法人化後すぐに整備できます。まだ作っていない法人の経営者の方も、今期中に着手しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。