先日、ある製造業の社長から相談を受けました。決算が終わったばかりのタイミングで税務調査が入り、結果として追徴税額が130万円を超えたというのです。「うちはきちんとやっていた」とその社長は繰り返していましたが、問題はやっているかどうかではなく、「書類が整っているかどうか」でした。
税務調査で否認される経費の多くは、不正でも架空でもありません。記載が甘い、規程がない、書類がない——その3つが原因です。今回は調査官が必ずチェックするポイントを3つ、具体的にお伝えします。
調査官が真っ先に開く帳簿は「交際費元帳」
税務調査が始まると、調査官がまず手を伸ばすのは交際費の元帳です。これは節税の観点でよく使われる「1人あたり5,000円以下の飲食費は交際費として損金算入しなくていい」というルールの裏返しでもあります。
この特例を使うには、5つの記載事項がすべて揃っている必要があります。日付・参加者の氏名・人数・金額・店名——この5項目が1つでも欠けていると、調査官は迷わず否認してきます。「領収書はある」では足りません。
冒頭の社長の場合、担当者が「領収書を貼っておけば大丈夫」と思い込んでいたため、参加者の氏名や人数が記録されていないケースが多数ありました。交際費だけで数十万円の否認が積み上がっていたのです。
対策は単純です。飲食費の精算のたびに、5項目を必ず記録するルールを社内に徹底すること。経費精算のテンプレートにこの5項目を入れておくだけで、リスクはほぼゼロになります。
旅費規程がなければ出張日当は全滅する
次に狙われるのが旅費と出張日当です。出張日当は実費精算と違い、所得税のかからない経費として処理できる節税効果の高い制度です。1日あたり3,000円〜5,000円を非課税で支給できるため、活用している会社も多いでしょう。
ただし、日当が認められるには就業規則または旅費規程への明記が絶対条件です。「社長がそう決めた」「長年そうしてきた」では通りません。規程がなければ、日当の全額が「役員賞与」や「給与」として課税対象になるリスクがあります。
さらに、出張ごとに出張報告書の提出も求められます。どこへ、何のために、何日出張したのか——この事実を書面で証明できなければ、業務との関連が不明として全額否認されることもあります。
旅費規程は1〜2ページの簡単な書類でも十分機能します。顧問税理士に依頼すればひな形はすぐに用意してもらえるはずです。まだ整備していない会社は、今期中に対応しておくことを強くおすすめします。
最も危険なのは「役員の私的経費」の混入
3つ目は、税務調査の中でも最も深刻なパターンです。役員の個人的な支出が会社の経費に紛れ込んでいるケース——家族との旅行費用、個人的な接待、自宅の修繕費の一部——これが発覚すると、通常の追徴税額に加えて**重加算税35%**が上乗せされます。
「うっかりだった」「大した金額ではない」という言い訳は通りません。調査官が仮装・隠蔽があると判断した時点で、重加算税の対象です。実際の追徴額は平均で100万円を超えるケースが多く、一度指摘されると次回以降の調査でも重点的にチェックされるようになります。
社長自身は「これくらいは問題ない」と思っていても、調査官の目には意図的な経費混入と映ることがあります。グレーゾーンの支出は、処理する前に顧問税理士に相談することが、結果として会社を守ることになります。
今日から始められる3つの確認
経費否認は「知らなかった」では済みません。税務調査は予告なく来ます。今すぐ以下の3点を確認してみてください。
- 交際費の記載ルール: 飲食費の精算に日付・氏名・人数・金額・店名の5項目が揃っているか
- 旅費規程の有無: 社内規程に日当の金額と支給対象が明記されているか
- 役員経費の分離: 個人支出と会社経費の境界線が曖昧になっていないか
書類の整備は、今日からでもできます。旅費規程をまだ作っていないなら、今期中に整えておくことが最優先です。交際費の記載ルールは、経費精算の仕組みに組み込んでしまえば担当者の負担もほとんどありません。
税務調査で追徴を受けてから動くのと、事前に備えるのとでは、コストも精神的な負荷もまったく違います。顧問税理士と一度、自社の書類整備の状況を棚卸しすることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。