先日、ある社長からこんな連絡が来ました。

「不動産で節税しようとしたら、逆に500万円以上損してしまいました。どうしてこうなったのか、整理してもらえませんか」

年商3億円の製造業を営むA社長(仮名)のお話です。顧問税理士ではなく、異業種交流会で知り合った先輩経営者のアドバイスを受けて動いた、というのがことの始まりでした。

「法人で不動産を買えば節税できる」は本当か

A社長が聞いたアドバイスはシンプルなものでした。「法人で不動産を買えば、減価償却費として経費にできる。利益を圧縮して法人税を減らせる」。

これ自体は、間違いではありません。

法人が事業用の不動産を取得すれば、建物部分(土地は不可)を法定耐用年数に応じて毎年減価償却できます。年間数百万円の経費が生まれれば、見た目の利益は確かに減ります。

ただし、この話には3つの「続き」があります。A社長はその続きを知らないまま、5000万円の物件を購入してしまいました。

ミス①:買った瞬間にまず200万円が消えた

不動産を購入する際、「物件代金」以外にも様々なコストがかかります。これは個人でも法人でも同じですが、金額の大きさを甘く見ている方が多い印象です。

仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、司法書士費用、各種調査費用——。

A社長の場合、5000万円の物件購入でこれらの取得コストが合計約200万円に達しました。購入を決めた瞬間に、減価償却の節税効果が出るより先に、200万円が確定的に消えていったわけです。

ミス②:減価償却は「節税」ではなく「課税の先送り」

ここが最も重要なポイントで、多くの経営者が誤解しているところです。

減価償却費は毎年の利益を減らします。でもこれは税金をなくしているのではなく、「今払う税金を将来に先送りしているだけ」です。

減価償却するたびに、建物の帳簿上の価値(帳簿価額)は下がっていきます。そして将来売却するとき、「売却価格−帳簿価額」が利益として計上され、そこに法人税がかかります。中小企業でも実効税率はおよそ34%前後です。

毎年の申告で「節税できた」と感じていた分が、売るときにまとめて回収される——そういう構造になっているのです。

ミス③:5年後の売却で300万円超の追加課税

A社長は購入から5年後、事業の都合で物件を売却することになりました。

5年間で減価償却が進んだ結果、建物の帳簿価額はかなり下がっていました。一方、不動産市況は購入時とほぼ変わらず、売却自体はスムーズに進みました。

「損せず売れたなら問題ないのでは?」と思うかもしれません。ところが、帳簿価額が低くなっているということは、売却価格との差額がそのまま「利益」として計上されます。A社長のケースでは、この売却益に対して300万円超の追加法人税が発生しました。

購入時の取得コスト約200万円と合わせると、合計500万円以上の想定外の出費。これが「不動産で節税するつもりが逆に損した」実態です。

出口戦略なき不動産節税は、節税ではない

この話の本質は、「買うときだけ考えて、売るときを考えていなかった」ことです。

法人で不動産を保有することが節税として機能するのは、出口戦略がセットになっているときだけです。たとえば退職金の支払いで売却益を相殺するタイミングを狙う、M&Aの前提として含み益を活用するなど、売るときの税負担を事前に設計しておく必要があります。

また、不動産はすぐに現金化できません。事業の資金繰りが厳しくなったとき、物件が足枷になるリスクもあります。「減価償却で経費が増える」という入口の話だけで判断するのは非常に危険です。

法人で不動産を持つこと自体が悪いわけではありません。ただ、それが本当に有利になるかどうかは、保有期間・出口のタイミング・その時点の会社の利益水準・退職金計画など、複数の要素が絡み合います。

「法人で不動産を買おうか検討している」という段階であれば、ぜひ数字を持って専門家に相談してみてください。購入後に後悔してからでは、選択肢が大幅に減ってしまいます。A社長のような結果を避けるためにも、出口まで見据えた設計が欠かせません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。