決算間近になって、顧問税理士からこう言われた社長は少なくないはずです。「今期は利益が出すぎているので、決算賞与を検討しましょう」。

まだ払っていない賞与を、今期の経費にできる。そう聞くと魔法のような話に思えますが、実際にはかなり神経質な要件が並んでいます。要件を一つでも外せば、税務調査で全額否認される可能性があるのです。

決算賞与の未払計上とはどういう制度か

通常、賞与は実際に支払った時点で経費になります。ですが決算賞与の未払計上という方法を使えば、決算日までに一定の手続きを済ませておくことで、実際の支払いが翌期になっても今期の損金として計上できます。

利益が予想より多く出た決算期に、法人税を抑えながら社員に還元できる。使い方次第では会社にも社員にもメリットのある制度です。

ただし、この制度は税務署が重点的にチェックする項目のひとつでもあります。税務調査の現場では、決算賞与の未払計上があると聞いた瞬間に、担当者の目つきが変わるという話もよく耳にします。

否認されないための3つの要件

未払計上が認められるためには、法人税法上、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 決算日までに、支給額を各人ごとに、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること
  • 通知した金額を、決算日の翌日から1ヶ月以内に全員に支払っていること
  • その支給額について、通知した日を含む事業年度に損金として経理していること

一見すると難しくないように見えますが、実務ではこの3つが「セットで、完璧に」揃っていないと成立しません。どれか一つでも欠けると、未払計上した金額全体が否認されます。一部だけ認められるという救済措置はないのです。

現場で実際に否認されているパターン

税務署OBの方に話を聞くと、否認事例には共通のパターンがあるといいます。

多いのは、通知はしたものの、その証拠が残っていないケースです。口頭で「今期は賞与を多めに出す」と伝えただけで、書面や記録がない。調査官からすれば「本当に決算日までに通知していた」と客観的に確認できなければ、要件を満たしていないと判断せざるを得ません。

もう一つは、支払期日のわずかなズレです。1ヶ月以内という期限は厳格に運用されており、資金繰りの都合で支払いが1日遅れただけでも、その1日が致命的になります。「あと1日だから大丈夫だろう」という感覚は、税務調査では通用しません。

全員に同時期に通知するという要件も落とし穴になりやすい部分です。対象者の一部が休職中や退職予定だったために通知が漏れていた、というだけで要件を欠くことになります。

実務でどう対策すればいいか

対策の方向性はシンプルです。形式要件を、疑いの余地がないレベルまで固めておくことです。

まず通知は必ず書面で残します。各人ごとの支給額を明記した通知書を作成し、受領した日付が分かる形で保管しておく。メールで送るだけでも、送信日時の記録があれば有効な証拠になります。

次に支払期日については、決算日の翌日から1ヶ月というカレンダーを逆算し、資金繰り計画に組み込んでおくことが重要です。決算賞与の額が大きいほど、支払い直前の資金確保が綱渡りになりがちです。あらかじめ融資枠や手元資金の準備をしておけば、支払いの遅延というつまらない理由で否認されるリスクを避けられます。

そして経理処理は、通知した事業年度内に確実に損金として計上します。決算作業のバタバタの中で処理が漏れることもあるため、決算スケジュールに未払計上の処理日を明示的に組み込んでおくと安心です。

決算賞与の未払計上は、うまく使えば法人税の負担を抑えながら社員への還元もできる有効な手段です。ただしそのぶん、税務署にとっても「否認しやすいポイント」として見られていることを忘れてはいけません。

今期決算賞与を検討しているなら、通知書のフォーマットと支払期日の資金繰りを、今のうちに顧問税理士とすり合わせておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。