先日、飲食店を2店舗経営する社長からこんな相談を受けました。
「オープンから8年たった1号店の内装を直したんです。壁紙もカウンターも傷んでいたので、業者にまとめて発注して300万円。全部『修繕費』で経費に落としたんですが、これで大丈夫でしょうか」
見積書を見せてもらうと、確かに傷んだ壁紙やカウンターの補修は入っています。ただそれだけではなく、照明をすべて最新のLED演出照明に変え、席のレイアウトも一部作り直していました。
これは税務署の目線で見ると、そのまま修繕費で通るとは限りません。
「直した」つもりでも、判定基準は別にある
多くの社長が誤解しているのは、「壊れていた場所を直したのだから修繕費だろう」という感覚です。実際の判定基準はそこではありません。
税務署OBの方に話を聞くと、見ているポイントは一つだけだと言います。「その支出が、資産の価値を高めたか、寿命を延ばしたか」です。
単に元の状態に戻すだけなら修繕費。しかし、性能や耐久性が支出前より明らかに上がっているなら、それは資本的支出として資産計上し、減価償却で少しずつ経費にしていく扱いになります。
傷んだ壁紙を同じグレードの壁紙に張り替えるのは原状回復です。しかし、演出照明への総入れ替えや、内装のグレードアップを伴う改装は、店舗の価値そのものを底上げしている側面があります。ここが混在すると、工事全体が「修繕費のつもりが資本的支出」と指摘されるリスクを抱えることになります。
経費と資産計上、何がそんなに違うのか
仮に300万円の工事費がすべて修繕費と認められれば、今期の利益からまるごと300万円を差し引けます。法人税の実効税率をおよそ30%とすると、90万円ほど税負担が軽くなる計算です。
ところがこれが資本的支出と判定されると話は変わります。固定資産として計上し、耐用年数に応じて数年かけて少しずつ償却していく形になるため、今期に落とせる金額はごく一部にとどまります。
つまり「今期の税金がこれだけ減る」と見込んでいた金額が、実際にはずっと少ない金額しか経費にならない。資金繰りの計算が根本から狂ってしまうわけです。
さらに厄介なのは、すでに全額を経費として申告し終えた後にこの指摘を受けるケースです。修正申告が必要になり、本来納めるべきだった税金に加えて、過少申告加算税や延滞税まで上乗せされます。「節税したつもりが、余計な税金を払う羽目になった」という結果になりかねません。
現場で迷わないための考え方
実務でとくに迷うのが、一つの工事の中に「直しただけの部分」と「良くした部分」が混在しているケースです。
先ほどの内装工事で言えば、壁紙とカウンターの補修は原状回復、照明の総入れ替えとレイアウト変更は機能向上、という具合に中身を分けて考える必要があります。
ここで有効なのが、工事を発注する段階で見積書の内訳を分けてもらうことです。「補修部分にいくら、グレードアップ部分にいくら」と書面で切り分けてもらえれば、修繕費として処理できる部分と資本的支出として計上すべき部分を、根拠を持って区分できます。
工事が終わってから区分しようとしても、後付けの説明にしかなりません。発注前、あるいは工事の途中の段階で、この視点を持っておくことが何より重要です。
迷ったら、着工前に相談する
設備が古くなってきたタイミングで「ついでに良くしておこう」と考えるのは自然なことです。ただし、その「ついで」の部分が税務上の扱いを大きく変えてしまう可能性があることは、頭の片隅に置いておいてください。
もし今、店舗や工場の改装・修繕を検討している、あるいはすでに見積もりを取っているという段階であれば、契約前に一度、内訳の分け方について税理士に相談してみることをおすすめします。
工事が終わってしまってからでは選べる手段が限られてしまいます。まだ改装計画が固まっていないなら、今のうちに見積書の作り方から整理しておくのが賢明です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。